過去を運ぶ足  


 2012.3.13   ミステリー色の強い短編集 【過去を運ぶ足】

                      評価:3
■ヒトコト感想
ミステリー短編集。作者にしてはめずらしく似た設定の作品が多い。ミステリーとしてのトリックも特別驚くようなものではない。ブラック度は作者らしいが、ミステリーという土俵で考えると、イマイチかもしれない。主人公は、妻帯者で子供がなく、妻に不満をもちつつ、若い女へ浮気心をくすぐられているという男のパターンが多い。そして、ほぼすべてが妻をどうにかして亡きものにしようとたくらむ作品だ。パターンが同じで、あとは途中の仕組みが違うだけ。作者自身、奥さんに対して何かしら不満をもっているのだろうか。特に男女関係の痴情のもつれのすえ、なんだかんだあるという雰囲気も多い。男女のいさかいというのは、事件として描きやすいのだろう。

■ストーリー

女房の親父を納棺するときに見た足のかたちは私の死んだ弟のものとそっくりだった。ということは私と女房は!しかも女房は妊娠中!表題作ほかブラックでこわァい短篇推理十四篇。

■感想
男女のいさかいの物語ばかり印象に残っている。それは特別面白いからというわけではなく、似たような設定だからおぼえている。実際にはそれほど同じ設定ばかりではないのかもしれないが、本作に収録されている作品の印象は?と聞かれたら、間違いなくそう答えてしまうだろう。そんな中でも「断崖」は、夫婦の争いで、夫が妻を邪魔に思いつつ、妻も夫がいなくなればと考えている典型だ。わりとありきたりなのかもしれないが、最後の終わり方がなんだか面白いので、より強く印象に残っている。

「天国に一番近いプール」はミステリーの王道なのかもしれない。ただ、そのトリックは、「そんなことあるはずない」と思わずにはいられない。もし、ミステリーマニアが本作を読んだとしたら、ありえないトリックに怒りだすかもしれない。もちろん、設定は定番の男女のいさかいだ。作者がよく使うパターンだが、因果応報で罠にはめた男が、こんどは逆に自分が同じ罠にはめられるという流れだ。その他「記憶の惨殺」や「不在証明」など、ミステリーの定番であるアリバイトリックをあつかっている。悪くはないのだが、作者にはあまりミステリーの要素を求めていないので、意外な流れと感じた。

「氷のように冷たい女」は結末を想像すると、思わずそのグロテスクさに気持ちが悪くなる。冷凍庫に監禁されたと思わしき女が蒸発した。女はいったいどこへ行ってしまったのか…。物語は、もしかしたらミステリーの密室トリックをイメージしたのかもしれない。密室から女が消えたというのは、まさに密室以外のなにものでもないが、オチが衝撃的だ。淡々と語る男の口調と、女が消えたトリックを想像したとき、気持ち悪さと、その瞬間を想像したため、衝撃度は相当なものだ。油断していると、たまにこんなインパクトがあるので、たまらない。

ミステリー要素の強い短編集だ。




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