影絵の町  


 2012.11.9    ザ・大人の恋愛 【影絵の町】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

大人の出会いと大人の恋愛。人生経験豊富な作者だからこそ描ける作品だろう。男と女がどのような恋愛感を持っているのか。印象的なのは、男と女の関係は4分の3がうまくいかないという言葉だ。それは、お互い嫌い、男だけが好き、女だけが好きの場合はうまくいかないかららしい。完全に数学的なロジックだが、そうはならないのが世間の常識だ。男女間の機微が、ロジックには当てはまらない状況をメインに描きつつ、大人な雰囲気をかもしだしている。男女間の微妙な心境というのは非常にわかりにくい。そのわかりにくさを物語にした作者はすごい。何も考えずに読むと、なんとも平板で面白味のない物語と感じることだろう。

■ストーリー

ときめく恋、淋しい恋、情熱的な恋、せつない恋。〈おとこ〉と〈おんな〉。新たな〈恋〉のドラマが始まる時、夕闇という名の幕は、静かに二人の姿を隠す…。

■感想
物語の中には、必ずしも大人な登場人物ばかりではない。中には20代の若者の物語もある。しかし、ちまたに溢れるようなわかりやすい恋愛物語ではない。一癖も二癖もあり、さらには、ちょっとした変化を読みのがすと、いったい何が面白いのか気付かない可能性もある。それだけ、男女間の微妙な心理を、微妙な描き方で表現している。結末の最後の一行を読むことで、女の言葉が何を意味していたのかわかる。物語の途中では、謎にすら気付かない。感覚的には、薄味で品の良い食事を楽しむような感じかもしれない。

大人の恋愛と言われて、ドロドロとした不倫や略奪愛を想像した人は、想像力が乏しいのだろう。大人であっても、まるで中学生のような淡い恋心をもち、恋愛に対して慎重にならざる得ない場合がある。わかりやすい恋愛ではない。強烈なインパクトや、本作を読みドキドキし、恋愛したくなるというたぐいのものではない。京都を旅行し、神社仏閣を観光するような、そんな気分に近いかもしれない。ゆっくりと、雰囲気を楽しみ、大人とはこうなのだと思いながら読むべきだろう。

何十年ぶりかの出会いや、偶然の出会い。ふと昔の女を思い出す。なんてことから、劇的な恋愛に発展するのはまれだ。ほとんどは、本作のように思いは思いで終わり、想像は想像で終わる。ラストに意味深な描き方をした短編もあるが、その先は読者が想像するしかない。頭の中に思い描くのは、ゆっくりと流れる景色の中で、妙齢の男女が、向かい合い、何を話すでもなくただお互いの目を見つめ合う。そこには言葉はなくとも、お互いの意思は通じ合っている。理想的かもしれないが、この境地に達するのは並大抵のことではない。

大人の恋愛に不慣れな人は、読んで勉強すると良いだろう。




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