2011.5.19 子供向けミステリー 【銃とチョコレート】
評価:3
乙一ランキング
■ヒトコト感想
子供向けの作品のため、ひらがなが多く少し読みづらく感じるかもしれない。内容もどちらかといえば、子供がよろこびそうなものだ。怪盗ゴディバと名探偵ロイズの頭脳合戦の中に、リンツが紛れ込むのかと思いきや、リンツがすべての鍵を握っている。謎の怪盗ゴディバが盗んだ宝のありかが書かれているであろう地図を、ひょんなことから手に入れたリンツ。その地図をめぐって、ロイズとその仲間たちや、いじめっ子などが複雑に絡み合うことになる。わりとオーソドックスなミステリで、大きなどんでん返しがあるわけではない。子供にも簡単に理解できる内容なので、大人が読むには少し物足りないと感じるかもしれない。小さい頃に読んだ探偵小説を思い出してしまうような流れだ。
■ストーリー
少年リンツの住む国で富豪の家から金貨や宝石が盗まれる事件が多発。現場に残されているカードに書かれていた“GODIVA”の文字は泥棒の名前として国民に定着した。その怪盗ゴディバに挑戦する探偵ロイズは子どもたちのヒーローだ。ある日リンツは、父の形見の聖書の中から古びた手書きの地図を見つける。その後、新聞記者見習いマルコリーニから、「“GODIVA”カードの裏には風車小屋の絵がえがかれている。」という極秘情報を教えてもらったリンツは、自分が持っている地図が怪盗ゴディバ事件の鍵をにぎるものだと確信する。地図の裏にも風車小屋が描かれていたのだ。リンツは「怪盗の情報に懸賞金!」を出すという探偵ロイズに知らせるべく手紙を出したが…。
■感想
もしかしたら、明智小五郎だとかそのあたりを意識したのだろうか。少年探偵団の役割をリンツが行い、なんてことを考えながら読んでしまった。ただ、普通の子供向け探偵小説と違うのは、怪盗ゴディバが完全なる悪というわけでなく、名探偵ロイズが完璧な正義というわけではないというところだ。あまりにも直接的に物事を受け入れてしまう少年少女だとしたら、本作の流れには多少のショックを受けるかもしれない。わかりやすい勧善懲悪ではないので、この世はドロドロとした醜い世界だということを思い知らせる意味もあるのだろうか。
ひらがなが多く、行間も広く、1ページの文字数も少ないので、大人であればスラスラと読めてしまうのだろう。そのかわり、複雑なトリックや、あっと驚くようなオチがあるわけではない。わりと展開が予想でき、怪盗ゴディバの正体も、もしかしたら早い段階で気付いてしまうかもしれない。子供が主人公ということで、子供らしい描写もあれば、子供には少し難しすぎると思うような場面もある。物語の流れとして、地図を探す冒険モノの要素もあるので、ミステリ一辺倒ではない、別の楽しさがあるのかもしれない。
登場するキャラクターがチョコレートのメーカーというのが、タイトルのゆえんなのだろう。怪盗ゴディバに名探偵ロイズという、誰もが連想しやすいチョコの名前と、作中のあちこちにチョコを連想させる言葉が散りばめられている。甘い香りが漂ってくるような雰囲気もあり、知らず知らずのうちにチョコが食べたくなってくるかもしれない。チョコと共に、子供向けといいながら、移民のために差別されるというくだりを入れるなど、それなりに子供たちに考えさせようとしているようだ。
教科書にのるようなたぐいの物語ではないが、ミステリの入門編としては良いのかもしれない。
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