純平、考え直せ  


 2012.4.11   見習いヤクザの悲しさ 【純平、考え直せ】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

見習いヤクザの純平が組長から鉄砲玉(暗殺)を言い渡され、決行するまでの三日間を描く。はねっかえりだが、心優しく、成りあがろうと必死な純平。様々な人との出会いから、心底悪人ではないことがわかってくる。焼肉屋で出合った女や、兄貴に連れられて行った現場で、同じように下っ端のヤクザと仲良くなったりと、若者らしさがある。ただ、そんなユーモラスな場面が続いたとしても、最後にまっているのは鉄砲玉となり、長い塀の中の生活があるということだ。この手の流れでは、暗殺の直前に、偶然の出来事がかさなり、純平にとって最善の方向へと動いていくはずだった。読者はそれを期待するのだが、純平の行く末は…。なんだか、最後の場面は寂しすぎる

■ストーリー

坂本純平、21歳。新宿・歌舞伎町のチンピラにして人気者。心酔する気風のいい兄貴分の命令は何でも聞くし、しゃべり方の真似もする。女は苦手だが、困っている人はほうっておけない。そんな純平が組長から受けた指令、それは鉄砲玉(暗殺)。決行までの三日間、純平は自由時間を与えられ、羽を伸ばし、様々な人びとと出会う。その間、ふらちなことに、ネット掲示版では純平ネタで盛り上がる連中が…。約一年半ぶりの滑稽で哀しい最新作。

■感想
チンピラである純平が、娑婆で最後の三日間を過ごす。そこで出会う奇妙な人々は、キャラクターとしての個性があり、純平になんらかの手を差し伸べるかと思っていた。コインランドリーをねぐらとする若いオカマや、偶然一夜を共にし、ネット掲示板に純平の決断を書き込んだ女。似たような境遇の下っ端ヤクザに、元大学教授で今はアウトローの生活に憧れる爺さん。ここまでそろえば、純平の凶行に対して何かしらのストップがかかるものと思ってしまうのが普通だろう。

ヤクザが最後の三日間をどのようにして過ごすか。家庭に恵まれず、辛く悲しい子供時代をすごしてきた純平。刹那的な自由というのがものすごく伝わってくる。ヤクザの下っ端の苦労と、上が下をどのように思っているかが、物語をより悲しいものにしている。純平を止めようとする者たちの思いが、純平に伝われば伝わるほど、読者はあるひとつの結末を連想する。特に意味ありげなうんちくを繰り返す元大学教授は、純平に対して大きな力になるものと思っていた。

ユーモアあふれる展開で、読んでいて楽しくなるのは中盤までだ。後半は、純平がひたすら暗闇の中へ突き進んでいるようで、悲しくなる。地元の後輩や、先輩たちとの会話であっても、それがまるで死に行く者の最後の思い出作りのように思えてしまう。作者は最初からこのオチを想定していたのだろうか。定番として、偶然が重なり、暗殺することなく、組から追われることもなく、純平が無事足を洗えるなんてことを想像してしまった。もしかしたら、作者もそれを考えていたが、あえて読者の思いを裏切りたかったのだろうか。

意外といえば、意外なオチかもしれない。




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