2011.10.9 新キャラ登場 【ドラゴン・ティアーズ 龍涙-池袋ウェストゲートパーク9】
評価:3
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■ヒトコト感想
このシリーズの売りは、最新の時事問題を取り入れることにあるが、本作ではそこまで目新しさを感じることはない。表題作である「龍涙」では、新しい主要キャラクターが登場したというくらいで、その他はいつもの池袋のトラブルシューターが問題を解決するという流れだ。世間が言うところの負け組みであり、下流であるマコトが無償でトラブルを解決する。その解決手段がすっきりと後味の良いものとなるのが本作シリーズのパターンだ。もちろん、今回も胸のすくような解決がまってはいるが、どこかで読んだストーリーというか、デジャブ感がある。ある程度パターンが同じだと、どうしても決まりきった流れになるのはしょうがないのだろう。どこかで読んだような雰囲気の作品ばかりだ。
■ストーリー
時給300円弱。茨城の“奴隷工場”から19歳の中国人少女が脱走した。彼女が戻らないと、250人の研修生は全員が強制送還される。タイムリミットは1週間。捜索を依頼されたマコトは、チャイナタウンの裏組織“東龍”に近づく。彼女の事情を知り、板ばさみになり悩むマコト。万策つきた時、マコトの母が考えた秘策とは。
■感想
前作が派遣の実状を描いた作品で、本作でも弱者に対して焦点が当てられている。「キャッチャー・オン・ザ・目白通り」と「出会い系サンタクロース」は男女の違いなだけで、ほぼベクトルは同じだ。弱みやコンプレックスを突く商売に対して、なんらかの反撃を試みるような流れだ。となると、いつものGボーイズやサルが登場し、マコトが手におえないような相手には、仲間の力を使って解決する。いつものシリーズとして安心できる流れだが、どこかで読んだことがあると思わせる流れなのはしょうがないのだろう。
「家なき者のパレード」は弱者に対する物語だ。ホームレスの問題が当時話題になっていたのか良くわからないが、昔からある問題を取り上げているわけではないのだろう。ホームレスが透明人間という描写があるが、まさしく自分の中では、ホームレスがどうなろうと気にしていなかった。また、その手のニュースが流れたところで、頭に入らなかったのだろう。だとすると、作者が語ることはまさに真実を突いている。こうやって作品化されることで、ホームレスについて気にする人がでてくるのだろう。それをホームレスが望むかは別の問題だが…。
表題作は、久しぶりに新キャラクターが登場したということで、インパクトはある。この流れからすると、間違いなく今後マコトと絡むことも多いだろう。そういう意味では記念すべき作品だが、内容自体は、よくあるパターンだ。搾取され低賃金で3Kの職場で働く中国人というのは、昔から存在したのだろう。マコトが助けたのは一人であり、その他大勢の中国人たちのことはいっさい触れようとしない。それはこのシリーズ全般に言えることだが、限定されたマコトの周辺のみを、マコトの価値観で解決している。そこが最大公約数的ではない、尖がった個性の要因のひとつだろう。
シリーズとしての目新しさが薄れていくのはしょうがないことだ。
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