イキガミ


 2011.3.22  血も涙もない制度 【イキガミ】  HOME

                     

評価:3

■ヒトコト感想
「国家繁栄維持法」によって死が目前に迫った人々の行動を描いた作品。あらがいようのない運命の前で、24時間後に死が迫ると人はどういった行動をとるのか。結末は死ということで、必然的に悲しみがつきまとうことになる。いくつかのエピソードが描かれているが、そのどれかでは、実は手違いで死ぬことはなかったというハッピーエンドがあるのではないかと思っていたが、そうはならない。残酷なまでに現実はやってくる。ある程度の感動は押し寄せてくるのだが、死を前提とした感動のため、残酷な印象は拭い去れない。心の中では、ほんの少しくらい逃げ道が用意してあってもよいのではないかと思えてしまうほど、ばっさりと切り捨てている。作品の性質上ある程度の感動は必ずある。

■ストーリー

厚生保健省に勤める藤本賢吾(松田翔太)の仕事は、政府から発行された死亡予告証を本人に届けることだった。「国家繁栄維持法」が施行されたその世界では、国民に生命の価値と死の恐怖を植え付けるために、小学校入学以前のすべての児童が「国繁予防接種」を受けることが義務づけられていた。そして、1000人にひとりの確率で、18歳から24歳に成長した時期、死を迎える。その24時間前に、通称「逝紙(イキガミ)」を配達して、死亡宣告を下すのが藤本の役目だった。

■感想
複数のエピソードから成り立つ本作。24時間後に死が迫った三人を描いているのだが、そこに救いはない。最初のミュージシャンにしても、最後の最後に自分の生命をかけたような歌を歌い、そこで息絶える。人々の心に響く歌声が、死が目前に迫ったとき初めて出てくるというのは皮肉なことだ。国家繁栄維持法がまかり通る世界では、死についてはそれほど重要視されていないのかと思いきや、死の扱い方は現在とほとんどかわらない。むちゃくちゃな世界のような気もするが、生命の価値を知るというのは、確かにうなずけるかもしれない。

印象的なエピソードとしては、最後の盲目の妹とその兄のエピソードだ。ある程度先が読める展開だが、それでも一定の感動は押し寄せてくる。目が見えない妹に対してイケメンだといい続ける兄。自分の死が迫っていると知りながら強がるシーンは、思わず涙がこぼれそうになる。どうあがいても逃れられない運命とわかっていながら、心のどこかで、もしかしたら、という願望がある。しかし、物語はその希望をあっさりと打ち砕いてしまう。どうにもならないという気持ちが、かなりモヤモヤする。わかっていたことだが、これが本作の特徴なのだろう。

主人公である藤本は、終始この「国家繁栄維持法」に対して思うところがあるのだろう。物語として、そこで何か大きな反乱なり変化をどうしても求めてしまうのだが、何も起こらない。24時間後に死ぬとわかった人々を、ただ傍観するしかない。他人の死によって自分の生の尊さを理解するというのは感じるが、それにしても悲しすぎる。ある意味、人の希望をぶち砕くことによって物語りにメリハリをつけている。そのため物語全体を通して陰鬱な気分は常につきまとうことになる。

ある程度の感動はあるが、それは心からの感動ではない。



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