異形の地図  


 2013.1.4    男と女の微妙な心境 【異形の地図】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

旅先での奇妙な出来事をテーマとした短編集。主人公の<私>が経験する出来事に奇妙な余韻が残る。パターンとしては、何か印象的な出来事なり思い出を回想し、現実でもそれを連想させるような出来事が起こる。はっきりと現象の不思議さを示すのではなく、かすかに雰囲気をにおわせつつ終わっている。ただ、全体的にオチが何もなく、雰囲気を楽しむといった感じかもしれない。恐怖と共に、男女間の微妙な心境を描きつつ、男と女の難しさを表現している。強烈なインパクトはないが、男女間の難しさがうっすらと漂ってくる。本作の面白さはどこか?と尋ねられると、答えにとまどってしまう、そんなたぐいの物語かもしれない。

■ストーリー

各地を旅し、奇妙な出来事に遭遇する<私>。「菱形慕情」「火垂るの海」「檜原湖まで」「踊る指」「ゆらめく湖(うみ)」「マングローブ樹林」「雪惑い」「鈍色(にびいろ)の雨」「午後の潮騒」「鳥瞰図」「分水嶺」「瑠璃色の底」からなる短編集。

■感想
「踊る指」は、いかにも恐怖小説にありがちな話だ。ある旅先で紙を裁断する機器を見て連想する。指を挟まれたらひとたまりもないだろうと。ある日、怪我をしたダンサーが、踊れない代わりに、指でダンスをすることを覚えたという…。誰もが想像するとおりのオチだ。特徴的なのは、指でのダンスを詳細に表現していることだ。唐突感はあるが、みごとな指のダンスというのを思わず頭の中に想像してしまう。物語の最後には、お決まりどおり、指が…。本作の中でもっともわかりやすい作品かもしれない。

「マングローブの樹林」は、男女間の隠微な雰囲気と、マングローブという聞きなれない植物の得たいの知れない怖さがある。旅先でマングローブの木の説明を受け、種が根を張る描写の奇妙さに驚く男と女。その夜、女はマングローブの種に襲われる夢を見る。マングローブの生態を知った作者が、想像力を働かせ、種が根を張る姿を男女間の営みと連想したのだろう。マングローブという名前も奇妙な隠微さがあるため、物語にふさわしい植物のような気がした。結局のところ、マングローブの種が突き刺さり成長するというただその一点だけで物語を構築しているのはすごい。

「雪惑い」は、女の心はわからないと思わずにはいられない作品だ。雪深い地から逃げてきた元恋人。結婚しようと誓い合ったが、父親に連れられ田舎に帰るとそれっきり連絡がとれない。一時の気の迷いではすまされない、なんだか男のやるせない気持ちばかりが残る作品だ。本作は男と女で感じ方はずいぶんと違うだろう。男は、あの愛を誓い合った日々は嘘だったのかと思い。女は、現実路線を着実に歩むのが正しいと思うのだろう。裏切られた形の男を哀れに思うか、勇気を出せない男を意気地なしと思うか。男女の間には、深い溝があるように感じた。

特別、旅を意識して読むことはないが、ひとくくりにするならば、旅先での出来事をまとめた短編集だ。




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