家日和  


 2011.5.23  悲喜こもごもの家族たち 【家日和】

                      評価:3
奥田英朗ランキング

■ヒトコト感想

家庭で起こるちょっとした問題や出来事をユーモアたっぷりに描いている。作者の目のつけどころのすばらしさと、面白い展開。よく考えればすごいことだが、さもあたりまえのように描かれている。特に印象的なのは、会社が倒産した男の話だ。妻と夫の役割が逆転したように、主夫となり、それを受け入れてしまう男。まるで家事が天職のように生き生きとしはじめる。不況のこの時代に、何かメッセージを発しているのではなく、単純にこんなことになったら面白いと考え描いているようだ。すべての短編に、はっきりとしたメッセージはなく、面白おかしく状況を描いている。そのため、読み終わるとなんだかよくわからないが、面白いなぁという印象ばかりが残ってしまう。

■ストーリー

会社が突然倒産し、いきなり主夫になってしまったサラリーマン。内職先の若い担当を意識し始めた途端、変な夢を見るようになった主婦。急にロハスに凝り始めた妻と隣人たちに困惑する作家などなど。日々の暮らしの中、ちょっとした瞬間に、少しだけ心を揺るがす「明るい隙間」を感じた人たちは…。

■感想
家族にまつわる様々な短編集。作者独特のきりくちで、あたりまえの出来事を誇張し、ユーモアを交えながら描いている。ネットオークションにはまる主婦や、転職を繰り返す夫や、会社が倒産した夫など、世相を反映しているのか、衝撃的な出来事からスタートとなっている。家族が崩壊しかねない出来事であっても、なぜか悲壮感なく、前向きな雰囲気を感じてしまう。ユーモアを交えながら、苦難を苦難と思わず前向きに進んでいる。強烈なインパクトはないが、あとに残る楽しさがある。

会社が倒産し、夫と妻の役割が交代した物語は面白い。周りの心配とはうらはらに、当人たちはその生活を楽しんでいる。役割が変わると、私生活や性生活までも変化してしまうようだ。夜の生活であっても、いつのまにか、妻が夫を攻める形となる。なんだか妙に面白い。倒産というショッキングな出来事に対して、悲壮感をいっさい感じさせない。そればかりか、再就職の話さえも迷惑に感じるほど主夫を楽しんでしまう。ここまで前向きになれれば、リストラにおびえる男たちのストレスも、少しは緩和されるのだろう。

ロハスに燃える妻の話では、作者の実体験かと思えるほどの状況だ。有名な文学賞をとり、それをさかいに余裕ができると、ロハスに走る妻。作者がこの作品を描くこと自体が、作中にあるように妻を馬鹿にしていることになるのだろう。それを危惧する作中の主人公は、必死に言い訳の言葉を続けている。それこそまさに、作者の妻に対する言い訳に思えてきた。考えれば考えるほど主人公は、作者に思えてしまう。ユーモア作家の苦労を語り、賞をとると手のひら返しで仕事が舞い込む。このあたりは間違いなく作者の実体験だろう。

サラリと読め、クスリと笑えてくる作品集だ。




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