抱擁、あるいはライスには塩を  


 2013.5.17     風変わりな家族の物語 【抱擁、あるいはライスには塩を】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

風変りな一族の物語。子供は小、中、高校に通うことなく、家庭教師から勉強を学ぶ。体育や芸術関係は両親から。世間一般の常識からかけ離れた特異な家族の物語だ。お手伝いさんつきの裕福な暮らしをし、何不自由なく暮らす。家族構成もすさまじく、父親と母親がそえぞれ違う子供が兄弟として生活する。世間では非難されるようなことでも、この一族には関係ない。考え方や行動が、昔の貴族風な雰囲気がある。

そんな一族の、一般人とは違う思考と行動。そして、外から見た一族の異質さが様々な人物の視点で描かれている。冒頭から、今まで家庭で教育を受けていた子供たちに、突然、小学校へ通へという命令が父親から下される。このドタバタもまた衝撃的だ。

■ストーリー

三世代にわたる「風変わりな一族」の物語東京・神谷町の洋館に暮らす柳島家は、ロシア人の祖母、変わった教育方針、四人の子供のうち二人が父か母が違う…等の事情で周囲から浮いていた。時代、場所、語り手を変え、幸福の危うさ、力強さを綴る。

■感想
風変りな一族を描いた連作短編集。必ずしも時系列で進むのではなく、出来事をベースに現在、過去と行ったり来たりする。冒頭は特殊な一族の説明と、突然、小学校へ通へと言われた子どもたちの戸惑いが描かれている。

このあたりで、世間の常識を超えた家族だということがわかる。実は、長女の父親は違う人物で、末っ子の母親も違う。そんなちぐはぐな兄弟が仲よく暮らす家族。物語が進むにつれ、父親が違う子供が生まれた理由や、叔母と叔父も同じ家で暮らす理由も語られている。

家族内の視点から描かれる物語は当然として、一般人の視点からこの家族を描くというのがかなり強烈だ。こんな特殊な家族であれば、一般人はなかなか対応できないと考えてしまう。どこか貴族風な雰囲気と巨大な屋敷に圧倒されてしまうだろう。

風変りな一族であっても、将来は結婚し、独立していく。それらが物語を通して紆余曲折ありながら描かれているのが、家族の歴史を読むようで非常に興味深い。一方、失敗するパターンも強烈だ。叔母が結婚し、一般人の家へ嫁ぐ。貴族と平民はうまくいかないというのをそのまま表現した状態となっている。

特殊な家族構成でありながら、なぜか仲の良い家族。それも、独立や寿命でひとり減りふたり減りしていくと、元の大家族の面影がなくなる。今までの家族の変遷を読んでいると、変わっていく家族というのは悲しくもあり、当然だという感覚もある。

ある意味、俗世間とはかけ離れた独立国のような一族ではあるが、時間が経つにつれ、世間に吸収されるのは当然かもしれない。ただ、家族がバラバラになることに悲壮感はない。目の前の出来事を、家族たちは淡々と受け入れている。崩壊したとしても、どこまでも貴族風な体質を崩していないように感じられた。

特殊な家族だが、その悠然とした振る舞いに、思わず憧れてしまう。




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