2012.1.19 偽札を作るべきか否か 【ヒトラーの贋札】 HOME
評価:3
■ヒトコト感想
偽札を作れば、辛く苦しい強制収容所生活が楽になる。ナチス・ドイツの時代、強制収容所送りとなったユダヤ人の中で、技術を持つものだけが偽札作りへとかりだされた。実在した事件を描いた本作。強制収容所の信じられないような過酷な状況と、技術を持ち偽札を作ることによって、人間らしい生活ができる葛藤。収容所生活の強烈なインパクトと、囚われの身でありながら偽札作りに従事する者たちとの待遇の差。偽ポンド札の作成に成功し、次はドルへという段階で、変化が起こる。結末はどうあれ、収容所生活内部の葛藤や、生きるためにどうすべきかという人間の根本を問うような作品だ。物語の流れに見入って目が離せなくなる力がある作品だ。
■ストーリー
第二次世界大戦中のドイツ・ザクセンハウゼン強制収容所。ナチス・ドイツがイギリスの経済混乱を狙って企てた「ベルンハルト作戦」により、ここに送られた者たちがいた。贋作師のサリー(カール・マルコヴィクス)に印刷技師のブルガー(アウグスト・ディール)、そして美校生のコーリャなどユダヤ系の技術者たち。彼らは“完璧な贋ポンド札”を作ることを命じられる。初めこそ成功しつつあったこの贋札作り。だがやがて、彼らは自分の命を守るために使命を全うするか、正義を全うするかの究極の選択を強いられることになる…。
■感想
偽札を作ることによって強制収容所での生活に安全がある。その前提を覆すような信念を持つブルガーの存在によって、偽札作りが妨害されてしまう。他の強制収容所送りにされた囚人たちと自分たちとの違いをより明確にし、地獄のような生活へは戻りたくないと思わせる動機付け。そして、偽札を作ることが、長い目で見ると自分たちの解放を遅らせ苦しませるという現実。そこまで先を考えてのことではないだろうが、ブルガーのサボタージュによって、偽札作りが妨害され、結果的に未来は明るいものとなる。これがすべて現実のことだというのは衝撃だ。
偽札を作るという特別な技術を持つ者たち。監守やナチスの少佐にも一目置かれる存在となり、偽札作りを取引の材料とする。収容所生活でありながら、確固たる力をみせかけだけでも持つ存在というのは、他者に対して与える影響というのは大きい。すべてをまとめる立場となったサリーが、ブルガーの反発にあいながら、どのようにして自分たちの生活を守るのか。仲間(ブルガー)を売り、仲間の生命を守るのか、それともブルガーのサボタージュに同調するのか。サリーの葛藤が画面からにじみでている。
ラストは歴史的事実が示すように、ナチスが撤退し、解放される。そこでは、自分たちの環境がいかに快適だったかが示され、強制収容所の他のものたちの劣悪な環境を目にすることになる。ほんの少しの運の差で、大きな変化があり、それはちっぽけな紙切れ一つ作ることによって変わっていく。サリーのむなしさというのは、ラストの場面に集約されている。強制収容所の辛い環境から逃げ出すために、ナチスを助けたということが最後までサリーの心の奥底にこびりついているのだろう。
こんな衝撃的な偽札事件があったなんて、まったく知らなかった。
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