緋色の囁き  


 2011.6.13  ホラーとミステリのあわせ技 【緋色の囁き】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

名門女学園でまき起こる事件。お決まりどおり、その学園は閉鎖的で規律厳しいお嬢様学園となっている。「開かずの間」で起きた事件をきっかけに、学園の秘密や冴子の過去にまつわる隠された真実がしだいに明らかとなっていく。この手の作品は、いくつかの伏線から先を予想してしまう。主人公である冴子が、血を見ると意識をなくし、夢遊病者のようにさまよい歩く。となると、必然的に冴子の怪しさばかりを予測してしまう。物語はホラーの要素と、ミステリの要素をあわせ持っている。ただ、どちらも特別なモノではなく、定番といえば定番の流れなので、驚くことはない。ミステリとして作者の仕掛けにはまり、最後に驚くのか。それとも、予想していた結末に少しがっかりするかのどちらかだろう。

■ストーリー

「私は魔女なの」謎の言葉を残したまま1人の女生徒が寮の「開かずの間」で焼死した。その夜から次々と起こる級友たちの惨殺事件に名門女学園は恐怖と狂乱に包まれる。創立者の血をひく転校生冴子は心の奥底から湧き起こってくる“囁き”に自分が殺人鬼ではないかと恐怖におののく。

■感想
次々とまき起こる事件。ミステリ的に不可能殺人というわけではないので、単純に誰がなんのためにやったのか、ということが焦点となる。怪しげな人物は多数登場してくる。特に、学園でグループを仕切るような形の綾と、その取り巻き立ち。クラスの中に「魔女」を作り出すという儀式からも、何かしらそのあたりの人物たちが、事件に大きく関わっていると思ってしまう。その他には、最初に犠牲となった女生徒の兄にあたる人物が、復讐の鬼となるパターンまで想像してしまった。

結局、それらの予想はことごとくはずれた。作者はわざと読者をミスリードさせたのだろう。ホラーの要素がからまるため、もしかしたら超常現象的な何かかということさえ考えてしまう。閉鎖された女だけの学園で、いくつかのグループができ、そこで行われる魔女狩りの儀式。抑圧された環境下で起こる、非日常をすんなりと物語にはめこみ、頭の中には異様な雰囲気が出来上がっている。物語を読んでいると、この奇妙な学園内も、どこか異常な空気に包まれているような気がしてならなかった。

緋色の囁きというタイトルどおり、女と血をポイントにあげている。全体としては、冴子の意識の奥底に隠された何かが大きな鍵となる。二重人格的に、冴子の意識がないとき、事件が起こる。読者はあたりまえのように、冴子の隠された人格を疑うだろう。学園の創立者の血を引き、隠された過去を持つ女。ミステリの定番としては、何かあると考えずにはいられない。ラストのオチについては、ある程度の驚きはある。まったく予想しなかった人物が犯人なのは間違いない。ただ、そこに「やられた」という感想はなかった。

ホラーの要素よりもミステリーの要素の方が強い作品だ。




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