響灘 そして十二の短編  


 2013.3.22    折り目正しい大人の不倫 【響灘 そして十二の短編】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

表題作の「響灘」は、男女の大人の付き合いというのを感じさせるのに十分な物語だ。本州の端にある響灘へと旅する大人の二人。よくある不倫旅行なのかもしれないが、大人らしい分別と、お互いの生活を尊重する大人の振る舞いがある。

家族持ちでありながら、家族のためでない、自分だけの休日というのは、いざとなればとりにくい。というか、休みとなれば家族と条件反射的に思う良い父親ならば、絶対に思わない、そして思えない状況だろう。いざ、自分の時間を使うとなると、本作の主人公のような状況でもないかぎり、行先には迷うことだろう。あとくされなく、かつ、大人の不倫を折り目正しく楽しむ物語だ。

■ストーリー

休みでもとってみるか。家族サービスでなし、ゴルフでもなし、休暇の理由はとくに会社には言わずに……。一見ごくありふれたサラリーマンが思いついた、わずか二日間の旅の行き先は暖流と寒流がぶつかりあって、波が立ち、音をたてるという響灘だった。

六年前に別れた愛人から電話をもらった男は、二日だけ休暇をとって、そこを訪ねることにした。──不思議な海が二人だけの景色となって騒いでいる──。再会した男と女の一夜を美しく描いた表題作と、家族をテーマにした連作短篇十二篇

■感想
表題作が印象深いのは当然として、その他に続く家族をテーマとした短編というのは、それなりに考えさせられるものがある。「ここだけの話」は、どこにでもいるおばさん的感覚かもしれない。ここだけの話として、人の噂話をする女がいた。そして…。

作者のパターンとして、他人の噂をするのは、その後、自分になんらかの影響がでてくるという流れがある。ここだけの話なんてのは、人が秘密の話をするときに定番として登場する枕詞だが、そう言う人はあまり信用しないようにしている。

「遊園地」は、男がつかの間の自由な時間を得た時にすること、という作者らしい定番の流れだ。男は妻が病気のとき、子供を連れて遊園地へ行った。そこでは子供たちだけを遊ばせておき、自分は近くの飲み屋へと向かうのだが…。

子供を持つ親というのは、子供の面倒を見つつも、自分の自由な時間を探しているのかもしれない。都合のよい場所を見つけたのは良いが、それをどのように活かすか。子供には良い顔をしているが裏では…。なんだか後ろめたい気分になる作品だ。

「野沢菜」は、そのシーンが目に浮かぶようだ。貧乏な男とその妻が、給料日前に食べ物がなく野沢菜を食べながら、噂話をくりかえす。いくら給料日前だからといって、煙草を買うお金や、その日の食事にも困るというのはどうなのだろうか。

冷蔵庫にある野沢菜を食べながらお茶を飲む。それ自体になんら問題はないのだが、噂話が、妙に野沢菜と合うようで面白い。お茶を飲みながら、他人の噂話をするのは、何より楽しいことなのだろう。

短編はさておき、表題作は男女の大人の不倫を描いた良作だ。




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