花惑い  


 2013.1.21    大人の余韻を感じる 【花惑い】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

大人の恋愛小説。ガツガツするわけでもなく、情熱的でもない。有川浩が描くような、デレデレ系ではない。江國香織が描くような、男女の激しい嫉妬などではない。石田衣良が描くような、現代っ子の恋愛でもない。大人、それも昔の奥ゆかしい大人の恋愛というのを感じさせる物語ばかりだ。劇的な出会いというわけでもなく、衝撃的な別れもない。物語としてダイナミックな何かがあるわけではないので、物語の引きはそれほど強くない。それでも、大人の余韻を残して物語は終わっていく。わかりやすい物語ではないので、強く印象には残らない。切ない心の機微を描いているので、それをどれだけ読み取れるかで、楽しめるかどうかが変わってくる。

■ストーリー

“―恋はいつから始まるのか―僕はいつもそのことを考えてしまう。”南十字星の下、出逢った一人の未亡人。六本木のディスコで知り合った自由奔放なもう一人のおんな。光と影、陽と陰―対照的なおんなたちの間で揺れ動くおとこ。花火のように終っていく夏。その中で、静かに密やかに燃えてゆくおとことおんな。切ない心の機微を描いた、おとなの恋の物語。

■感想
「傷ぐすり」は、恋愛に熱を上げる男の微妙な心情を描いている。男の知り合いは、恋人と別れるとすぐに次の恋人を見つける。その恋人はだんだんとランクが下がっていく。恋愛での怪我をすばやく治すために、傷ぐすり代わりに新しい恋人を作る。男の心情は理解でき、女性のランクが下がっていく過程がなんだか面白い。必ずしも女性のランクが重要だとは思わないが、恋愛の傷を治すために間に合わせで女性を選ぶという行為が、なんだかむなしいというか悲しげな気分になる。

「知らない癖」は、親しい女友達の思わぬ癖を知るという話だ。腐れ縁というか、密かに恋焦がれていても、ライバルが多いからと敬遠していた女性と友達として親しくなる。男女の深い付き合いをしない代わりに、関係が決定的に壊れることはない。男女の友情は成立するのか、という昔ながらの疑問を描いている物語だが、確かにうなずける要素がある。相手の女性が美しければ、男は絶対に何かしらモノにしようと考える。ただ、友達期間が長いと、チャンスがあっても尻込みしてしまう。草食系男子に限らず、ありそうなパターンだと思った。

その他の作品も、深い男女関係の中で、心の裏側に隠れた大人の作法のようなものが見え隠れしている。中高生のようにガツガツと相手を求めるのではない。馬鹿正直に相手にアプローチするわけでもない。自然と、まるでお互い事前に打ち合わせしていたように、いい具合に深い関係になる。これぞ大人の恋愛なのだろう。深い中になるタイミングがどうだとか悩むのは、青臭い若者の特権だ。直球で相手に思いを伝えるというのが難しい状況であればあるほど、大人の恋愛というのは成功しやすいのかもしれない。

ことさら大人の雰囲気と感じるのは、本作が描かれた時代が昭和だからというのもあるかもしれない。




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