灰の迷宮  


 2012.11.12    偏執的な捜査 【灰の迷宮】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

バスの放火事件からはじまり、過去の放火事件の模倣や、果ては鹿児島で起きた灰により家の屋根が崩落する事件まで、すべてを含めて複雑に絡み合うミステリーになっている。バス放火事件直後にタクシーに轢ねられ死亡した男。単純な事故かと思いきや…。この複雑さには驚かされる。事件自体はそれほど大そうなものではないのに、吉敷はしつこくかぎまわる。吉敷シリーズといえば、時刻表の複雑なトリックが印象的だが、本作は細かいことを執拗に調べる吉敷の執念を感じずにはいられない。ちょっとした手がかりから、事件は大きく動き出す。読者が想像するよりも、はるかに複雑で、常人ではたどりつけない領域へと吉敷はすすんでいる。

■ストーリー

新宿駅西口でバスが放火され、逃げ出した乗客の一人がタクシーに轢ねられ死亡。被害者・佐々木徳郎は、証券会社のエリート課長で、息子の大学受験の付き添いで鹿児島から上京中の出来事だった。警視庁捜査一課の吉敷竹史は、佐々木の不可解な行動や放火犯として逮捕した男の意外な告白から、急遽、鹿児島へ…。アッと驚く犯人像。

■感想
放火事件を発端として、ひとりの男がタクシーに轢き殺される。その状況が不自然なことから、吉敷が動き出す。序盤はいったい何が起きているのかまったくわからない。事件はある程度不自然ではあるが、ただの事故のようにも思える。ただ、過去の放火事件と状況が酷似しているというだけで、吉敷は執拗に捜査を続ける。前から感じていたことだが、吉敷の偏執的とも思えるほどの執念は、現実の刑事にも当てはまることなのだろうか。吉敷シリーズ全般に言えることだが、本作は強烈なパラノイア的なものを感じた。

吉敷の捜査をなぞる形で進む本作。見逃せばただのゴミとしか思えないようなものを手がかりとし、捜査していく。読者は、吉敷の捜査に間違いはないという思いがあるからこそ、読み進めることができる。これが、なんの保証もない状態であれば、とてもじゃないが、耐え切れないだろう。あるときは鹿児島まで行き、そこでも地道な捜査を続ける。男の家が灰で屋根が落ちたということが、どれだけ事件に影響があるのかなんてことは、普通は考えない。この非常識さが複雑なミステリーとして成立させている。

事件の結末は意外だ。中盤以降はある程度流れが見えてくる。男の交友関係から始まり、繋がりがないと思われた人物に繋がっていく。事件の規模に比べると、過去のちょっとした転落事故や放火事件なども引っ張り出し、複雑怪奇なものにしている。アリバイトリック系ではなく、人と人との繋がりをどのようにして暴き出すのかが重要な物語だ。吉敷のクールでありながら、執拗なまでに事件にこだわるその姿は、シリーズを通して一貫している。

時刻表トリックではないだけに、自分としてはわりと入り込みやすかった。




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