愚者のエンドロール  


 2013.8.17     ミステリー映画の続きを推理 【愚者のエンドロール】

                      評価:3
■ヒトコト感想
折木、千反田、そしていつもの古典部のメンバーが、今回は未完成のミステリー映画の犯人を推理する。学園で起こりそうなちょっとしたミステリーを、キャラクターの魅力と絶妙な語り口で、興味深く描いている。前作よりもなじみやすく、ミステリー好きが喜びそうな展開が盛りだくさんだ。限定されたヒントを細かく考えながら、そこから犯人を導き出す。

お決まり通り、別の推理を展開する者や、ミステリーの王道を知らしめるために、本格的な推理をする者もいる。ミステリーの作法や、原則を理解する上でこれほど適した作品はないだろう。最後には、折木がすべてをまとめ、決定的な推理をするが、それすらも千反田は納得できない。ミステリー好きには、よだれがでるような作品だ。

■ストーリー

「折木さん、わたしとても気になります」文化祭に出展するクラス製作の自主映画を観て千反田えるが呟いた。その映画のラストでは、廃屋の鍵のかかった密室で少年が腕を切り落とされ死んでいた。誰が彼を殺したのか?その方法は?だが、全てが明かされぬまま映画は尻切れとんぼで終わっていた。続きが気になる千反田は、仲間の折木奉太郎たちと共に結末探しに乗り出した!さわやかで、ちょっぴりほろ苦い青春ミステリの傑作。

■感想
尻切れトンボで終わったミステリー映画。犠牲者がでた段階で止まり、犯人を古典部のメンバーが推理する。前作から引き続き、省エネタイプの折木、好奇心旺盛な千反田。そして、歩くデータベースの里志など古典部の魅力あふれる面々が、独自の推理を展開する。ビデオ映画を作成した側が展開する推理にダメだしをする古典部。

ミステリーとしての原理原則を語りながら、ミステリーの素人が書いた脚本の続きを想像する。ずいぶんと難しいことのようだが、脚本の中に書かれたこと以外は、犯人解明のヒントにならないという、これまたミステリーの原則をおさえた流れとなっている。

折木を含め、いつものキャラクターがその個性をはっきする。自分の能力がないとわかっている者。そして、能力があることに気づいていない者。また、気づこうとしない者。今回は、折木が最後にすべてを解決するような推理を展開するが、それにさえ不満を見せる千反田。

折木のトリックは、かなり魅力的だ。ビデオ映画の場面を頭に想像し、そして、実は真犯人は…。かなり騙された感はあるが、驚きのトリックであることは間違いない。そして、最後には…。日常に起こりそうなミステリーとしては最上級なミステリーだ。

作者は根っからのミステリーファンなのだろう。廃屋の見取り図や、その廃屋の設計者が中村青司を連想させるなど、マニアックなミステリーファンならば、思わずニヤリとしてしまうだろう。シャーロック・ホームズがミステリーの初心者向けというのは納得できることだが、そこから、映画の結末のトリックにまで続くあたりは鮮やかだ。

ミステリーになじみのある人と、まったくの初心者ではこうも考え方が違うのかという意外な思いがあった。いつの間にか、自分がミステリーに拘泥する側にまわっていたのは、本作を読んであらためて認識させられた。

日常の些細なミステリーだが、ミステリー好きにはたまらない展開かもしれない。




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