2011.6.11 30代女性の悲喜こもごも 【ガール】
評価:3
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■ヒトコト感想
30代の女性の生き方を描く。作者の今までの傾向からすると、かなり毒の入った描き方をするかと思いきや、なんともすばらしく爽やかな描き方をしている。30代の女性となると、若い子に対しての僻みや嫉みばかりで、卑屈な女性の物語かと思いきや、開き直り30代を楽しむような明るさがある。本作を女性が読んでどう思うかはさておき、男から見ると、ものすごく的確に描いていると思う。30代ともなれば、人生それぞれ大きく違うだろう。その中の1つの人生として、女の子ではないが、おばさんでもない。おそらく女性が読んでも嫌な気分にはならない、大きく共感できる作品だろう。働く女性の気持ちは、男が思っている以上に複雑なのだなぁと、あらためて感じてしまった。
■ストーリー
わたし、まだオッケーかな。ガールでいることを、そろそろやめたほうがいいのかな。滝川由紀子、32歳。仕事も順調、おしゃれも楽しい。でも、ふとした時に、ブルーになっちゃう(表題作)。ほか、働く女子の気持ちをありえないほど描き込み、話題騒然となった短編集。
■感想
人生の勝ち組というのはどういう立場なのだろうか。ひと昔前には負け犬というフレーズが流行った。本作の女性たちは負け犬が当てはまる作品もある。しかし、負け犬に負い目を感じながら、明るく前向きに開き直って生活している。この明るさや楽しさというのは、読者を楽しい気分にさせる効果がある。仕事もおしゃれも、お金も自由に使える独身OLがふとした時にブルーになる。そんな瞬間は、男ではまったく想像ができない。この作者はどうやってこれほど的確な情報を集めたのだろうか。登場する女性のリアルさにしびれてしまう。
子持ちで働く女性の、男社会での気まずさも描かれている。育児という水戸黄門の印籠なみに強烈な武器をもった女性は、どうやって男社会で生きていくのか。思わずうなずいてしまう描写が多々ある。男たちは、”育児”という言葉を突きつけられると、とたんにおとなしくなる。残業もお願いできなければ、無理な出張も頼めない。そんな男の気持ちを知りつつ、強力な武器を使わないように仕事を続ける女性の苦労が描かれている。本作の読むと、女はなんて大変なのだ、と思わずにはいられない。仕事に全力投球できる男の幸せを実感してしまう。
イケメン新入社員の教育係になった女性の話は、最後に思わず声をだして笑ってしまった。歳の離れた新人に恋心をいだきつつ、不釣合いだと葛藤する。周りの若い女の子にチヤホヤされる部下にイライラし、不安になる。男と女の立場の違いだろうか、人を好きになるのも気をつかわなければならない年齢というのは辛い。最後に気持ちをふっきり、ヤングから脱却するというのは面白すぎる。特別なオチがあるというわけではないが、女性の気持ちを面白おかしく描いているすばらしい作品だろう。
実際に30代の女性が読んだらどう思うだろうか。おそらく大きく共感し、はげまされ、元気がでることだろう。
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