ガソリン生活  


 2013.7.23     車目線のほのぼの物語 【ガソリン生活】

                      評価:3.5
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■ヒトコト感想

車が主役の一風変わった物語。人間ではなく、車が思考し想像する。車同士の会話は当然として、その先には、ドライバーや同乗者の会話まで盗み聞きし、それに対して感想までも付け加える。なんだか、普通の感覚ではついていけない物語だ。語り手が車だけに、人間たちでは知りえない情報を、車たちのネットワークを介して収集する。

母子家庭である望月家の物語なのだが、この望月家が個性豊かでお決まりどおり事件に巻き込まれていく。特に、小生意気な次男は、学校でいじめられているようだが、それもうなづけるキャラクターだ。パパラッチやネットでの脅迫など、世相を反映したような内容で、見方によっては、かなり強烈な物語だが、車たちと望月家のほのぼのとした対応に、思わず癒されてしまう。

■ストーリー

実のところ、日々、車同士は排出ガスの届く距離で会話している。本作語り手デミオの持ち主・望月家は、母兄姉弟の四人家族(ただし一番大人なのは弟)。兄・良夫がある女性を愛車デミオに乗せた日から物語は始まる。強面の芸能記者。不倫の噂。脅迫と、いじめの影―?大小の謎に、仲良し望月ファミリーは巻き込まれて、さあ大変。凸凹コンビの望月兄弟が巻き込まれたのは元女優とパパラッチの追走事故でした―。謎がひしめく会心の長編ミステリーにして幸福感の結晶たる、チャーミングな家族小説。

■感想
車が主役の奇妙な物語。望月家のほのぼのとしたドライブから始まり、元有名女優とひょんなことから出会い、車に同乗する。そこから、怒涛の展開が待っている。パパラッチがしつこく追いかけまわすことであるカップルの車が事故を起こす。それに怒りを感じた望月家の長男と次男はある行動にでる。

作者のキャラによくありがちな、根拠のない自信と変に正義感にあふれおり、偶然の要素ですべてがうまくいくパターンだ。今回も、望月兄弟は特別な能力があるわけではない。それでも事件を解決してしまうのだからすごい。

パパラッチにネットでの脅迫や、家族を巻き込む脅しなど、内容は非常にディープだ。今の時代を反映したような、新しい悪の形かもしれない。それもかなり巧妙で、自分に被害がおよばないように、たくみな話術と証拠隠しにより他者を脅迫している。

それらの悪人たちに対して望月家は、偶然の要素がありながらも対決し、勝利する。そして、それを駐車場で傍観する緑のデミオ。車が人間たちの行動を観察し、心配し、そして怒り、喜ぶなんてのは、普通の物語ではない。ただ、この車たちの性格の良さが物語をほのぼのとさせている。

人間たちが知らない事件の真相を、車たちだけが知っているパターンもある。人間たちは車たちの後追いのように謎を解き明かす。ミステリーの結末を事前に知りつつ、その過程がどのようなものかを後で知る楽しみというのがある。なぜそのようなことができたのか。

車で事故死した死体を、他人に間違わせるにはどうすればよいのか。人間の種明かしがなければ、納得できない。車目線で語られる物語だけに、人間と同じような恐怖もあれば、車独特の恐怖もある。そのわずかな差を楽しむのも、本作の魅力かもしれない。

車が主役という新しいパターンの物語だ。




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