2011.4.19 シリーズの原点に返った作品 【ガリレオの苦悩】
評価:3.5
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■ヒトコト感想
シリーズとしての魅力は存分にはっきされている。しかし、長編に比べると、どうしても物足りなさはあるが、それでもいつものガリレオを味わうことができる。特に悪魔の手がでてくる物語に関しては、ガリレオシリーズの真骨頂とも言える、不可解な現象の中にしっかりとした科学的な裏づけがある見本のような作品だ。それ以外にも、そなりに興味深い作品はあるが、サラリと終わるので、深みはない。それと共に湯川のイメージが初期のころよりも、ドラマ版に近づいているような気がした。読んでいる間中、頭の中では福山雅治が、冷たい視線で相手を見下しているようなイメージが浮かんできた。この手の作品ではどうしても無理やり感がでてくるが、定番としてそれらを超越したパワーがこのシリーズにはある。
■ストーリー
湯川の頭脳に挑戦してくる犯人たち。「悪魔の手」と名乗る者から、警察と湯川に挑戦状が届く。事故に見せかけて殺人を犯しているという彼に、天才科学者・湯川が立ち向かう
。
■感想
シリーズの原点に戻ったような短編集。不可解な事件が発生し、迷宮入りする直前に湯川が科学的な実験で事件を解決する。思いっきり理系な作品で、理論はそれなりに頭の中に浮かんでくるが、それらが作中のトリックのような使い方ができるかはわからない。というか、かなり偶然に頼っているような気がした。普通の短編推理小説であれば、そのあたりは気になるのだが、ガリレオシリーズでは、シリーズの強みというか、ある程度の部分は許される土壌ができあがっている。そのため、どんなに奇想天外な科学的証明であっても、受け入れてしまう。
本作では物理学うんぬんという話がメインであるのはもちろんだが、草薙と薫という脇役たちの活躍にも注目してしまう。特に薫は、ドラマ版の印象よりさらに活躍している。特に女性目線での考え方というのは、女心が一切理解できない湯川と草薙の強烈な助けになっている。物語として薫の存在がよいアクセントになり、ドラマと同じように、適度に湯川に馬鹿にされている。さらには、薫と草薙が読者目線での疑問を代弁してくれるおかげで、湯川の解説にもすんなりと入り込むことができる。このあたりの役割分担はすばらしい。
本作の中では間違いなく「悪魔の手」関連がもっとも印象に残っている。偶然に発生したと思われる事故が、実は誰かに仕組まれていたという流れ。予告のトリックと、事故を発生させるトリックは、わかってしまえばなんてことないかもしれないが、そこに至るまでの演出がすばらしい。「悪魔の手」というネーミングもさることながら、なんの証拠も残さずに、事故にしか思えない状況で人を闇に葬る。いつもどおり、湯川がどういったきっかけかわからないが、強引にトリックを暴きだす。事件に至るまでの犯人の動機も、これまた理系らしいと感じずにはいられない。
シリーズの短編として安心して楽しめる良作だ。
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