2012.6.18 何より大切なのは愛や恋か? 【がらくた】
評価:3
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■ヒトコト感想
45歳の翻訳家・柊子と高校生の美海。それぞれの目線で語られる本作。海外のリゾート地で偶然出会った二人が、それぞれの家族と親密になり、恋愛へと発展していく。基本は柊子がどれだけ夫を愛しているかという物語だ。その味付けとして、多くのガールフレンドを抱える夫と、何もかも持ち合わせているように見える実海が柊子と絡んでいく。柊子の変わり者の母親であったり、美海の厳しい母親だったりと、二人の周りでは二人を退屈させない人々がいる。甘く切ない恋愛小説というよりは、不倫、片思い、大人への憧れなど、叶わないことに対する強い欠乏が描かれている。突然おそいかかる悲しみや、相手の気持ちがわからなくなる感覚など、手ひどい失恋を経験した直後に描かれたような、そんな印象をうけた。
■ストーリー
私は彼のすべてを望んだ、その存在も、不在による空虚さも―。45歳の翻訳家・柊子と15歳の美しい少女・美海。そして、大胆で不穏な夫。彼は天性の魅力で女性を誘惑する。妻以外のガールフレンドたちや、無防備で大人びた美海の心を。柊子はそのすべてを受け容れる、彼を所有するために。知性と官能が絡み合い、恋愛の隙間からこぼれ出す愉悦ともどかしさを描く傑作長編小説。
■感想
恋愛小説というと、甘く切なく、そして、読者は空想の中で自分を主人公に重ねあわせてみたりするのだろうか。今回は、悲劇の主人公というほどではないが、幸せな恋愛とはいえないかもしれない。相手をどれだけ愛していても、相手は、どこかで浮気をしている。そんな悲しい状況にありながら、相手を愛することをやめられない女。そして、およそ高校生らしくない、悟りを開いたような行動をとりつつも、子供らしいわがままを撒き散らす美海。読者は歳の離れた二人のうち、どちらかに感情移入できるのだろうか。
柊子の夫である男は、妻に浮気を推奨するような男だ。このあたり、ドラマとしては面白いのかもしれないが、どうも違和感ばかりが強く印象に残った。仮面夫婦ではなく、お互い愛し合ってはいるが、浮気をし、相手にも浮気をしてもらいたい。そんな神経の男が、物語として登場してくると、その異質な考え方にすべてが引っ張られるような気がした。高校生の美海であっても、実の父親の不倫をなんとも思わず、そればかりか、父親の不倫を手助けしようとする。
物語のバックグラウンドとして、裕福で経済的にはなんの心配がなく、周りには同じようなスタンスの者たちが集まっているというのがある。不倫や恋愛をメインとするには、その他の日々の生活の雑多なことで問題が発生するわけにはいかないのだろう。親との関係が、人間関係として一番の問題のような描かれ方をしているのも、本作の特徴かもしれない。人生の中で、何より大事なのは愛や恋だという書き方はされていないが、それに近いものを感じてしまった。
結婚していれば、ここまで自由な恋愛というのは、普通は考えられない。
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