眼球忌憚  


 2011.4.14  頭にこびりつく気持ち悪さ 【眼球忌憚】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

ただのホラーではなく、気持ち悪さが強烈に伝わってくる作品だ。由伊という名前の女性がすべての短編に登場するがあまり意味はない。あるのは、想像するのもはばかられるほどのグロテスクな描写だ。特別なトリックや、あっと驚く仕掛けがあるわけではなく、頭の中にこびりついてはなれない場面ばかりが登場する。特に印象に残っているのは「特別料理」だ。なぜこんなことを考え付くのか。なんだかんだと理屈が述べられてはいるが、理解できるものではない。グロテスクさが突き抜けている。あらかじめ、ある程度覚悟していたとしても、それなりに衝撃を受けるだろう。乙一のような残酷さを感じるが、それよりもさらに直接的で、脳髄に直接グロテスクな映像を送り込んでくるような感じだ。

■ストーリー

ある日、大学の後輩とおぼしき男から郵便が届いた。「読んでください。夜中に、一人で」という手紙とともに、その中にはある地方都市での奇怪な事件を題材にした小説の原稿が…。表題作「眼球綺譚」他、誕生日の夜の“悪夢”を描いた「バースデー・プレゼント」、究極の“食”に挑んだ逸品「特別料理」など、妖しくも美しい7つのホラーストーリーを収録。

■感想
グロテスクな世にも奇妙な物語といったところだろうか。それぞれの短編はほど良い長さで読みやすく、物語もそれほど複雑ではない。小難しいトリックなどもないので、サラリと読める。そのかわり、ある程度の覚悟は必要だろう。ホラーの要素があるのはわかっていたが、これほどグロテスクだとは思わなかった。登場人物たちは、何気ない言葉でとんでもない状況を描写している。常人では理解できない境地だが、逆に虚構の物語だとわりきり、存分にグロテスク感を楽しむのが良いのだろう。特別なオチがあるわけでもなく、中には後味の悪いものもある。それらすべてをひっくるめて、最後に残った印象は、気持ち悪いだ。

本作の中で特に印象に残っているのは、間違いなく「特別料理」だ。究極の”食”を求めるという話で、最初はまぁよくある悪食の話だ。ただ、この段階でもゴキブリだとか、ハリガネムシだとかを食べる描写というのは、すでに気持ち悪い。油断して頭の中で想像すると、とんでもないことになる。下手したら食事中に、ゴキブリを真っ二つに噛み切り、中から苦い何かがプチっと出てきた場面を思い出してしまうかもしれない。序盤ですでに気持ち悪いのに、オチはさらにとんでもないことになる。ある程度先が読めるかもしれないが、それでも圧倒的な気持ち悪さがある。食という身近なことだけに、なおさらかもしれない。

表題作でもある「眼球忌憚」は気持ち悪さもあるが、ラストの展開には少し驚いた。劇中劇のような感じだが、ちょっとしたホラー映画を見ている気分にすらなった。作中の人物が送られてきた小説を読み、思うこと。まさか、オチとしてそうなるとは思わなかった。作中の小説作品が気持ち悪いのは当然だが、小説に登場する恐ろしい場面が、まるでホラー映画のワンシーンのように簡単に頭の中で想像できてしまう。ある程度決まりきったパターンなのかもしれないが、定番の恐ろしさはある。ジワジワと読み進めていくうちに染み渡る恐怖は、この短編が一番かもしれない。

ミステリだけではない、作者のホラーには意外な魅力がある。




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