フリーター、家を買う  


 2012.10.12    順調すぎる成長物語 【フリーター、家を買う】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

母親のうつ病をさかいに、やる気をだすフリーターの物語。ひとことで言うとそれだけだが、その中には、複雑な父親との関係が描かれている。本作では、父親は妻の病気に気付かず、自分の楽しみのためだけに金を使うというダメな父親扱いだが、それ以外にとりたてて欠点はない。となると、ちゃんと家に金を入れ、マジメに働いているのであれば、良い父親に思えて仕方がない。さらには、母親の病気の原因でもある家を引っ越せない理由も不明だ。成長物語として、フリーターがやる気をだして変わっていくのは面白いが、そうさせる要因や、抜け出せない状況など若干説得力に欠けるように思えてしまった。タイトルとの乖離はないが、成長部分はものすごく駆け足だ。

■ストーリー

就職先を3カ月で辞めて以来、自堕落気侭に親の臑を齧って暮らす“甘ったれ”25歳が、母親の病を機に一念発起。バイトに精を出し、職探しに、大切な人を救うために、奔走する。本当にやりたい仕事って?やり甲斐って?自問しながら主人公が成長する過程と、壊れかけた家族の再生を描く。

■感想
新卒で入社した会社を3ヶ月で退職し、自堕落に親のすねをかじって生活していたフリーターの再生物語。きっかけは母親の病気なのだが、冒頭からかなり衝撃的な内容となっている。物語のトーンとしては、フリーターが気持ちを入れ替え、正社員として頑張るという、明るく前向きな作品かと思いきや、スタートが強烈に暗い。母親がうつ病で自殺未遂をおこすほど重症であり、そのとき父親は…。まず原因のひとつとして上げられる父親の存在があるのだが、ツラツラと並べられた原因をどう読んでも、世間でいうダメ親父とは繋がらないように思えて仕方がなかった。

母親の病気と共に、フリーターである誠冶が就職できない原因というのも語られている。このあたりは、もしかしたら就職できずに悩んでいるフリーターには良いアドバイスなのかもしれない。ただ、いくら気持ちを入れ替えたからといって、再就職先でやることすべてがうまくいくというのは、物語としての面白味がないように思えた。就職するまでは困難でありながら、一度就職してしまうと、そこからはとんとん拍子。現実はそうではないとわかっているだけに、就職までをメインに描く本作には、違和感を覚えずにはいられなかった。

家を買うということが、母親の病気を治すことに繋がるらしい。家を買うために正社員になる。それはわかるが、その前に父親の存在が気になってしまった。名の知れた大企業に勤め、家賃は格安。とりたてて激しい無駄遣いはないような描かれ方をすると、貯金が何千万も貯まってていいように思えた。浮気や暴力があるわけでもない。ただ、家庭に少しだけ無関心で、自分が可愛い父親なんてのは、世間にごまんといるように思える。母親の病気の深刻さと、家庭全体の問題というのが、微妙にずれているような気がした。

フリーター再生物語としては、就職してからトントン拍子なのが一番気になった。




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