フリークス  


 2011.5.16  驚きのどんでん返し 【フリークス】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

精神科に入院する者たちの奇妙なミステリ。3作の短編の中で、最初の2作は驚きの結末となっている。精神科の入院患者ということで、ある程度いろいろなパターンが想像できるが、ラストの驚きはかなりのものだ。何かあるぞとにおわせながら、読者の想像の上をいくのはすばらしい。最後の「フリークス」は、結末へいたるまでの物語は恐ろしく、おぞましいものだが、なぜか惹かれてしまう。前2作品と同じように、最後に大きな驚きがまっているかと思いきや、今度はオーソドックスな結末となる。あえて読者の期待を裏切るような展開にしているのだろうか。すべての作品にいえるのは、暗く苦しい恐怖のイメージだ。読み終わると明るい気分になれるような作品ではないことは確かだ。

■ストーリー

「J・Mを殺したのは誰か?」―巨大な才能と劣等感を抱えたマッドサイエンティストは、五人の子供に人体改造術を施し、“怪物”と呼んで責め苛む。ある日、惨殺死体となって発見されたJ・Mは、いったいどの子供に殺されたのか?小説家の「私」と探偵の「彼」が謎に挑めば、そこに異界への扉が開く!本格ミステリとホラー、そして異形への真摯な愛が生みだした、歪み真珠のような三つの物語。

■感想
「悪魔の手 313号室の患者」は、何度も驚くだろう。ただ、あまりの急展開と、あれも違うこれも違うとなり、いったい何が真実なのか混乱する可能性がある。第一段階としての驚きは衝撃的で、悪魔の手の原因が父親でもなく母親でもない場合、いったい誰の手なのか。普通では考えつかないことで、想像するとかなりおぞましい場面だ。その衝撃が覚めやらぬなか、今度はそのトリック自体が真実かどうか怪しくなる。どんでん返しのどんでん返しといった感じだろうか。ここまでいくと、もはやなんでもありな気になってくる。

精神病患者ということで、なんでもありな印象がある。「409号室の患者」についても、読者は様々な想像をめぐらし、先読みしようとする。自分の頭の中では、脳を移植し人格が複数あるようなオチを考えていた。本作は読者が考えるどのオチよりも、奇抜だろう。このパターンを想像できた人はいるのだろうか。オチがわかったときの「その手できたか」という衝撃度でいえば、本作の中では一番かもしれない。精神病患者だからこそ成立するといえるし、作者の考え方の柔軟性に驚かされるばかりだ。

ラストの「フリークス」は、結末へいたる過程は非常に興味深い。前2作の結末を読んでいると、どんなオチがまっているのかと楽しみになる。内容的にも、非現実的ではあるがおぞましい雰囲気が、ホラー映画を見ているような気分にさせてくれる。極限まで盛り上がった気持ちが、最後の最後で、消化不良のまま終わった印象だ。だれも思いつかないような、大どんでん返しを期待していたが、わりとオーソドックスで、特別な驚きはなかった。といっても、トリックにいたる過程はすばらしいが、期待を超えるものではなかった。

作者らしい怖さと驚きをもちあわせた作品だ。




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