ファミリーポートレート  


 2012.4.22   母娘の壮絶な生き様 【ファミリーポートレート】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

作者入魂の長大な物語。前半部分は母と娘の逃避行となり、後半は成長した娘の奇妙な人生が描かれている。マコとコマコという母娘は、強烈なインパクトがある。何か事件を起こしたと思わせておきながら、マコの不安定さと、コマコの必要以上の従順さが描かれている。前半は異常な母娘関係を描き、そんな幼少時代をすごしたコマコが成長してどうなるかが、後半に描かれている。後半は母マコに負けず強烈な個性をコマコは放っている。そして、結末間際には、小説家となり文学賞を受賞したコマコの生活が描かれる。もしかしたら、このあたりは直木賞を受賞した作者の戸惑いが、そのまま作品に反映されているのではないだろうか。リアルな物語ではないが、母と娘の異常さの中にある隠れた魅力に引き付けられる。

■ストーリー

最初の記憶は五歳のとき。公営住宅の庭を眺めていたあたしにママが言った。「逃げるわよ」。母の名前はマコ、娘の名前はコマコ。老人ばかりが暮らす城塞都市や奇妙な風習の残る温泉街。逃亡生活の中でコマコは言葉を覚え、物語を知った。そして二人はいつまでも一緒だと信じていた。母娘の逃避行、その結末は。

■感想
前半部分の母マコと娘コマコの逃避行は強烈だ。行く先々で男をくわえ込むマコ。そして、異常さをしめすコマコ。コマコ目線で語られる母マコというのは、母親としてはありえない。しかし、独特の感性と、女としての力を最大限利用するマコの生きかたには、ある種のポリシーを感じてしまう。この母娘は、飼いならされることが決してない。どんなにすばらしい環境が用意されていたとしても、そこにとどまることはない。他人から見れば信じられないような親子だが、二人の強い絆というのは感じずにはいられない流れかもしれない。

後半からはコマコの成長物語となる。前半の虐待に近い状態から解放されたとしても、コマコの生活は変わらない。コマコの生活というのは、普通ではない。ただ、その普通ではない感じは、母親ゆずりだという思いが強くなる。前半があることで、コマコがただの異常者ではないということがわかってくる。コマコが職業として選ぶものが小説というのも、なんだか意味ありげだ。文壇バーでの嘘で物語を作り上げるなんてことは、もしかしたら、現実でも当たり前に行われていることなのかもしれない。

作者の実体験が多分に含まれているのではないかと思ってしまう。特に小説家として成功し、文学賞をとるあたりは、直木賞を受賞した作者の心境を描いているようだ。当然、大部分はフィクションだろうが、その中で印象深いエピソードは、もしかしたら私小説的な流れなのかもしれない。マコとコマコの生活から、コマコが小説家として、また世界の中で歯車の一員として生活できるまでがダイナミックに描かれている。常人ではなかなか理解しにくい、人間として根本に存在する、生きるための熱量というのを感じずにはいられない。

長大な物語ではあるが、前半と後半で雰囲気ががらりと変わるので、飽きることはない。




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