永遠の仔5  


 2013.8.6     認めてもらいたい心 【永遠の仔5】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

長大な物語のラストは、衝撃的すぎる。今まで物語中で謎であった犯人がここで明らかとなる。当然犯人は思ってもいない人物だ。幼いころトラウマを抱え、それを払しょくできないまま大人になる。どんなに社会的に認められようとも、心の奥底から認めてもらいたい人には認めてもらえない。モウルとジラフと優希。

過去、霊峰でどんな事件が起きたかもはっきりと明かされるのだが、それさえも、当たり前に想像した通りの筋書きとはならない。最後の最後で、読者が想像もしない方向へと物語を動かしていく作者の筆力はすばらしい。ただ、予想と一致していたのは、暗く悲しい物語になるということだ。三人の中で微かに幸せをつかもうとするシーンが最後にあるのが、唯一のすくいかもしれない。

■ストーリー

母に続き弟まで喪ってしまった優希、母と優希への愛情にもがき苦しみ続けた笙一郎、そして恋人を殺害されてしまった梁平。三つの無垢なる魂に最後の審判の時が訪れる―。十七年前の「聖なる事件」、その霧に包まれた霊峰に潜んでいた真実とは?“救いなき現在”の生の復活を描き、日本中に感動の渦を巻き起こした永遠の名作、衝撃の最終章。

■感想
霊峰に潜んでいた真実。これはまさに衝撃的だ。優希の父親を山から転落させたのは誰なのか。モウルとジラフはそれぞれお互いに相手がやったと思っていた。その真実は…。物語のスタートから少しずつ歯車がずれていたのだろう。霊峰での真実をしっかり認識していれば、三人のトラウマもまた軽減されていたかもしれない。

幼少時代のトラウマを引きずり、それが後の強烈な事件へと通じる。本作で登場するいくつかの事件は、誰が犯人なのかおぼろげにしかわからない。本作で、すべての謎が解けるのだが、判明した犯人もまた衝撃的だ。

すべての出来事を精算しようとするモウル。すでに前作で、何かしら後始末的な行動をとりはじめた男なのだが、本作で最後の動きをする。弁護士という社会的地位の高い職業につきながら、最後の最後までトラウマから抜け出せなかった男。物語として、何か救いがあるのでは?という微かな希望もあっさりと崩れ落ちてしまう。

次々と鍵を握る人物たちが死んでいく物語としては、必然的に残った人物たちが、どのようなその後を過ごすかが気になってしまう。特にこの三人に対しては、少しでも希望のもてる最後を心の中のどこかで考えてしまう。

本作はかなり昔にドラマ化されたらしいが、見ていない。原作の内容をそのまま詳細にドラマ化したとなると、かなりの問題作だったのだろう。そもそも優希がトラウマを持つきっかけとなった出来事が、実の父親に性的いたずらをされたせいだ、なんてことをそのまま表現できるのだろうか。

壊れた人々を描きつつ、その人々がまっとうに再生していく過程を順に描いていければ、それなりに最後は感動するのだろう。トラウマをふり払えずに、そのままうもれていくのか、それとも抜け出すのか。本作を読むと、まさに紙一重としか言いようがない状況だ。

これほどトラウマを強烈に描く作品はない。




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