毒を売る女 島田荘司


2012.11.23    女の執念の恐ろしさ 【毒を売る女】

                     
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■ヒトコト感想

ミステリー短編集。純粋なミステリーというわけではないが、興味深い短編がある。表題作でもある「毒を売る女」は、作者の今までのイメージを覆すような、女の嫉妬心や女の恐怖をリアルに描いている。複雑なトリックや、大掛かりな仕掛けがあるわけではない。日常の中に潜む女同士の戦いというか、女の強烈なまでの怖さというのが描かれている。作中に登場する「梅毒」についてもあまり知識がなかったので、ここまで恐ろしい”毒”としての材料となるとは思わなかった。その他にも「渇いた都市」は、一人の女の生き様というか、完全犯罪と思われた仕掛けに思わぬ落とし穴がある。結果としてなんとも間抜けなことがきっかけとして死体の身元が判明してしまう。日常を舞台にした物語が、やけにしっくりきている。

■ストーリー

夫に性病をうつされ、それが不治の病いと知ったとき、若妻は狂った。大道寺靖子は、秘密を打ち明けていた友人とその家族に対して、次々と鬼気迫る接触をはじめ…(毒を売る女)。“糸ノコとジグザグ”という風変わりな名のカフェ・バー。だが、店名の由来には、戦慄すべき秘密が…(糸ノコとジグザグ)。本格推理の旗手が精選した、サスペンス&トリックの自信作。

■感想
表題作である「毒を売る女」は強烈だ。嫉妬うずまく女性社会の激しい駆け引き。性病をうつされ、それが、他人にうつるたぐいのものだった場合、女たちはどうするのか…。まず梅毒がどのような病気で、他人にどう影響を与えるのか。毒を売る女という表現どおり、女の執念の恐ろしさを感じずにはいられない。自分の状況よりも、プライドを傷つけられたという怒りを燃料とし、他人を落としいれようとする。病気に感染する恐怖と、避けていることを相手に知られる恐怖。すべてがない交ぜになり、とんでもなく恐ろしい物語になっている。

「渇いた都市」は、男が女をふとしたきっかけで殺してしまい、完全犯罪をもくろむが、死体の身元が判明し、犯罪が明るみにでるというパターンだ。まず、男が女と知り合い関係をもつまでが、濃密に描かれている。マジメな男が一歩を踏み出すきっかけというのは、ほんの些細なことにすぎない。それまでの人生すべてをかけた女に裏切られたとき…。完全犯罪と思いきや、意外なところから事件は露見する。短編の冒頭に、無意味に登場したと思われたあるアクシデントが、のちの犯罪露見へ繋がるという、ある意味巧妙な伏線が活きた作品なのかもしれない。

本作には様々な短編があり、吉敷シリーズの短編もある。特別な印象はないが、小難しい時刻表トリックまである。はっきりいえば、上記2編以外はそれほど印象深くはない。ひとつのアイデアで物語を構築しているので、アイデアが合わないと、流れ的に不自然に感じてしまう。莫大な相続税を危惧した男だったり、頭の中に意味のない数字の羅列が入り込むが、それが事件の予言であったり。常識外の出来事には違いないが、そこまで荒唐無稽ではない。微妙なラインをちょこまかと突いているような感じかもしれない。

表題作のインパクトがあまりにすごいので、他の作品の印象を消してしまっている。



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