ダークゾーン 貴志祐介


2012.1.17  生きるか死ぬかの真剣勝負 【ダークゾーン】

                     
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■ヒトコト感想

冒頭から将棋を連想させるSFホラーとなる。闇の中、突如として軍艦島で怪物を使った将棋がスタートする。なんの説明もなく進む物語に、読者は塚田と同様に混乱することだろう。しだいに状況がはっきりしてくると、知り合いたちが姿を変えた魔物を使い、相手の王を倒すという奇妙な将棋的世界だということがわかってくる。この異型の将棋が恐ろしい。ゲーム的な要素はあるが、やけにリアルでお遊び的な雰囲気がなく、上質なホラーのような説得力がある。命を賭けた異型の将棋と交差するように、現実世界のエピソードが描かれていく。この現実からどのようにしてダークゾーンへと繋がっていくのか。現実世界の人物たちが、魔物へと姿を変え戦う。ゲーム的だが、リアルな恐ろしさがある。

■ストーリー

情報科学部学生で日本将棋連盟奨励会に属するプロ棋士の卵である塚田は闇の中で覚醒した。十七人の仲間とともに。場所も状況もわからぬうちに始まった闘い。人間が異形と化した駒、“敵駒として生き返る戦士”などの奇妙な戦術条件、昇格による強力化――闇の中、廃墟の島で続く、七番勝負と思われる戦いは将棋にも似ていた。現実世界との連関が見えぬまま、赤軍を率いる塚田は、五分で迎えた第五局を知略の応酬の末に失い、全駒が昇格する狂瀾のステージと化した第六局は、長期戦の末、引き分けとなった……。

■感想
まず、なんといっても異型の将棋がすさまじい。その戦略性もさることながら、駆け引きを複雑にするルールや、駒が昇格するという概念まで、魔物の世界の物語というマンガチックな設定のはずが、それを感じさせない力がある。姿は魔物だが、中身が現実に存在する人間たちというのも恐ろしさを増幅させる要素だ。いったいなぜこんなことが起きたのか。軍艦島に理由はあるのか。七番勝負で決着がついたあとにはどうなるのか。すべてを疑問に持ち続けながら、異型の将棋を読み進めていくしかない。

現実世界で塚田はプロ棋士を目指す立場となる。明らかに異型の将棋と関係がありそうだが、その答えはみえてこない。プロ棋士になるための厳しい道のり。塚田のライバルである奥本の存在や、彼女である理紗の存在など、すべてが異型の将棋とリンクしているようで恐ろしくなる。ダークゾーンの存在がはっきりしない状態で、現実と魔界を交差するように読んでいると、塚田自身の将棋に対するスタンスが生み出した妄想が、ダークゾーンなのではと思えてくる。

ラストにはダークーンと共に、現実世界でもある決着がつく。本作は将棋を知っていれば絶対に楽しめるだろうが、将棋のルールすら知らない人には辛いかもしれない。将棋好きの作者が、SFと融合させ、自分の好きなように好きなことを描いたのがダークゾーンの世界で、現実世界ではそれらを補完するように、厳しいプロ棋士への道をミステリアスに描いている。万人受けするわけではないが、将棋というポピュラーなテーブルゲームを、生きるか死ぬかの真剣勝負に置き換えるのは、将棋好きならではの世界観だろう。

異型の将棋は強烈なインパクトがある。



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