ぼくの小鳥ちゃん 江國香織


2012.3.11   疲れを癒してくれる 【ぼくの小鳥ちゃん】

                     
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■ヒトコト感想

ぼくの部屋にある日とつぜんやってきた小鳥ちゃん。最初はてっきりこの「小鳥ちゃん」は、女の子のことかと思っていた。ラム酒のかかったアイスクリームが食べたいとわがままを言い、ときには嫉妬し、過去にも似たような小鳥ちゃんが部屋に来たことがある。なんて描写を読むと、女の子を比喩しているのかと思った。それが、”ぼく”には彼女がおり、小鳥ちゃんと彼女が同時に存在することで、小鳥ちゃんが女の子という想定はくずれた。ただ、”ぼく”の部屋にいたとしても、小鳥ちゃんと彼女はお互いのことを意識したり、干渉はしない。”ぼく”を通してでしか交流がないことが、なんだか変な気分にさせられるが、ちょっとしんみりとするファンタジーな物語であることは間違いない。

■ストーリー

雪の朝、ぼくの部屋に、小さな小鳥ちゃんが舞いこんだ。体長10センチ、まっしろで、くちばしときゃしゃな脚が濃いピンク色。「あたしはそのへんのひよわな小鳥とはちがうんだから」ときっぱりいい、一番いいたべものは、ラム酒のかかったアイスクリーム、とゆずらないしっかり者。でもぼくの彼女をちょっと意識しているみたい。小鳥ちゃんとぼくと彼女と。少し切なくて幸福な、冬の日々の物語。

■感想
おそらく、本作を最初に読んで誰もが思うのは、”小鳥ちゃん”が女性を意味しているのではないか、ということだろう。可愛らしいわがままや、自分にできないことに嫉妬し、不機嫌になったりと、まるで手のかかる彼女を扱うような気分になってくる。しかし、”ぼく”には部屋に舞い込んできた小鳥ちゃんと共に、ちゃんとした彼女も存在している。彼女とのデートに小鳥ちゃんがぼくの肩に乗って一緒に出かけたりすることもあれば、同じ部屋でノンビリすごしたりもする。このおかしな関係から、小鳥ちゃんのことを単純に女の子と読み替えることはできないと気付いた。

小鳥ちゃんは女の子でもなければ、人間でもない。しかし、ぼくの心に深く住み着いている。小鳥ちゃんが上階の住人の肩に止まっているのを見て、ぼくがショックを受けたことからも、彼女に近い存在なのだろう。小鳥ちゃんを、すべてを超越した何かと考えると、ぼくの嫉妬心は自分のものを他人にとられたくない男のよくばりな感覚に思えてきた。彼女とどれだけ仲良くしていたとしても、彼女とは違う、自分に好意をよせる小鳥ちゃんは大事な存在となる。形は違えど、恋愛感情に近いのかもしれない。

ヘタウマな挿絵と、ゆっくりと流れる日常。さらには”小鳥ちゃん”という響きが、読むとどこか心を落ち着かせる効果がある。まるで上質な音楽を聴いているかのように、疲れた心が段々と癒されていくような気分になってくる。複雑なミステリーや、ドロドロとした恋愛小説に疲れた人は、本作を読んでみたらどうだろうか。短編が少し長くなった程度の作品で、さらりと読みやすく、ときにクスリと笑いがでてくるような、心がほんわかとなる作品だ。

日常生活に疲れた人は、読んで癒されると良いだろう。



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