ブラック・ジョーク大全 阿刀田高


2012.4.10   時代を感じるジョーク 【ブラック・ジョーク大全】

                     
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■ヒトコト感想

大量のブラックジョークを読まされると、ジョークに慣れてしまう。かなり古い作品なので、時代を感じさせるブラックジョークもある。当時であれば成立していたとしても、今では?なジョークもある。サラリと読め、ニヤリと笑え、ブラックであればあるほど面白くなる。特に夫婦間で、旦那であれば妻が死んでくれることを願うジョークが多い。逆に妻としては、夫が保険金だけを残して早く死んでくれることを願うジョークや、義母に早く死んでもらいたいというジョークが多い。ある程度決まりきったパターンだが、世間の認識とズレているなら成立しないが、今でも楽しめるということは、このあたりの事情はまったく昔と変わっていないのだろう。時代を感じさせるブラックジョークは特に興味深い。

■ストーリー

もともとの反社会的な要素に加えて、狂気の笑いでもあるのがブラック・ユーモア。一見お気楽な笑いの裏には、つらく、苦汁に満ちた思い、あるいは本源的な恐怖が潜んでいる。時の試練をくぐり抜け、ますます切れ味鋭くなった傑作ジョークを、一気に集めた五百余編。隠し味の毒スパイスが、かえって薬になるか。

■感想
作者の短編作品に応用されているブラックジョークが多数ある。印象に残っているジョークがある。ある女が男にこう質問した。「美人な女と頭の良い女のどっちが好き?」男はこう答えた。「どちらも好きじゃない、ぼくが好きなのは君だけだ」一瞬、ただの純愛のように思えるが、実は質問した女が美人でも頭が良くもないということを男が答えている。これに近い質問をされ、男のように答えるパターンは、もしかしたら普通にあるのかもしれない。それをジョークとしてとらえるには、それなりに理解力が必要なのだろう。

時代を感じさせるジョークがある。優秀な大学生が一番人気の就職先へ就職できず、ショックを受け自殺するというジョークなのだが、その就職先が東京海上保険というのが時代を感じさせる。そして、ジョークの内容も、この企業でなければ成立しない。かなり昔の作品なだけに、その時代でなければ理解できないジョークもある。ブルーチップなんていう言葉自体、今の人は知らないだろう。今でいうところのTポイントが切手になったようなものだ。古すぎてジョークとして理解できないものもあるが、それらのジョークの意味を考えるのも楽しみのひとつかもしれない。

男は妻を疎ましく思い、何か問題があれば首吊り自殺をする。ワンパターンかもしれないが、短い会話の中で鋭い切れ味のジョークを成立させるのがすごい。ダラダラと長い文章を書いて、たいしたことないユーモアよりも、ただ二行の会話文でブラックなジョークとなるのがすごい。読み手にもある程度の知識や、一般常識としての思い込みが必要なのだが、このサラリとブラックな笑いを供給する本作は、多くの人に読んでもらいたい。ハリウッド映画の俳優が、サラリと小粋なジョークを飛ばすが、それに近い感覚かもしれない。

現代版のブラックジョークも読んでみたい。



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