壜詰の恋 阿刀田高


2012.4.19   ブラックな男女の色恋短編集 【壜詰の恋】

                     
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■ヒトコト感想

いつものようにブラックな短編集だ。ただ、この短編集の印象としては、男女の色恋系の話が多いような感じがした。それ以外にも、ある結末を予測するが、裏切られる楽しさがある。ただ、インパクトがどの程度あるかというと、他の優れた作品ほどではない。それでも、読み終わったあと、どうしようもない悲しさがこみ上げたり、むなしさが心に襲ってきたり、気持ち的に落ちるような作品もある。設定はバラエティに富んでおり、人の気持ちに恐ろしく食い込んでくる作品もある。おそらく、誰でも本作の短編の中で、ひとつは激しく感情移入できるだろう。特にサラリーマンには、身につまされるものがある。もしかしたら、作者がターゲットとした世代にぴったりと一致したのだろうか。

■ストーリー

砂丘でめぐり会い、めくるめく一夜をともにした気高い美女は、翌朝姿を消してしまった。そして枕元には香水のびんが……。それ以来、わが部屋にこの香水の匂いをまきちらすとき、かならずあの美女がそっとあらわれ、熟れた身体をひらいてくれるのだ。

■感想
男女間の色恋の話が印象に残っている。表題作である「壜詰の恋」もそうだが、「夫婦の休日」というのが、最後にあっと驚かされた。子供を流産した妻が、存在しないはずの子供の幻覚を見る。そのことに辟易していた夫は、外に女を作るのだが…。流産のショックから子供がいるという幻覚を見る。早い段階から、幻覚であるとにおわせていたので、もうひと捻りあるとは思っていた。それが、最後に驚きの結末となる。辛い出来事から、心の一部が欠けた場合、人は幻覚によって心の平静を保つ。それは何も妻だけではなかったのだった。

「追われる男」は、最後にニヤリと笑えるような流れだ。交通事故を偶然目撃した男は、魅力的な条件によって口止めを依頼される。良心の呵責から、常に誰かに追われている気分になる。人の人生に影響するような秘密をもつ男は、秘密の大きさに心悩み、誰かに追われているような気分になる。まさに思いこみの極地だが、作者のパターンだと、さまざまなオチが想像できる。本作はわりとベーシックなオチかもしれないが、別のパターンもある。作者の短編に慣れていればいるほど、笑えてくるだろう。

「灰色の声」は、なんだか映画になりそうなほど、壮大な物語を連想してしまった。男は人の声の調子から、その人に死が近づいていることを知る。占い師にも、そのような能力はありえると言われる。ある日、男は話す人が皆、死に近づいていると知る。大地震でも起きるのか…。喫茶店の中の店員や客がすべて死ぬ。街の人もすべて死ぬ。そうなってくると、大地震を想定するのだが、物語は思わぬ方向へと動いていく。頭の中では、ハリウッド映画的な大災害を想像してしまったが、これまた驚きのオチとなる。

作者の短編集を読んだことがない人は、新鮮に感じるだろう。



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