薔薇の木 枇杷の木 檸檬の木 江國香織


2011.11.28  余裕ある大人の恋愛 【薔薇の木 枇杷の木 檸檬の木】

                     
■ヒトコト感想
9人の女性たちの恋。若さあふれる、エネルギッシュな恋というよりも、ひっそりと内に秘めた熱を放出するような大人の恋。物語は9人の人物の目線で描かれている。次々と変わる視点に対して、最初は混乱したが、中盤になるとこの形式にも慣れてくる。不倫や浮気、日々の生活の不満や、叶わぬ恋を求めつづける者。恋愛のドキドキ感や甘酸っぱさはない。ある程度経験をつんできた者たちだからこそ、表現できる大人の恋なのだろう。夫婦間の関係や、男女の関係についてツラツラと描かれているが、物語全体には、よくわからない余裕のようなものを感じてしまう。何よりも恋愛を優先するのではなく、他が順風満帆なので、恋にうつつをぬかす。そんな感じに思えた。

■ストーリー

情熱。ため息。絶望…でも、やっぱりまた誰かを好きになってしまう!恋愛は世界を循環するエネルギー。日常というフィールドを舞台に、かろやかに、大胆に、きょうも恋をする女たち。主婦。フラワーショップのオーナー、モデル、OL、編集者…etc.9人の女性たちの恋と、愛と、情事とを、ソフィスティケイトされたタッチで描く「恋愛運動小説」。

■感想
大人の恋。瞬間的に恋に落ちることはあっても、平常心で大人の対応をする。不倫をする夫に気付いていながらも、気付かないフリをする。ちょっとした出会いや、何年も恋焦がれた出会いだとしても、情熱を内に秘め、密かに恋の炎を燃やしていく。子どもにはわからない大人の恋だ。不倫や、略奪愛的なものもあるが、そこにドロドロとしたものはない。なぜこうも簡単に恋に落ちるのかと思ってしまうが、激しさはなく静かに淡々と物語がすすんでいく。

女目線だけでなく、男の目線でも描かれている。女流作家らしく、男目線であってもどこか女性的で、フェミニストな雰囲気がある。本作を読んだからといって恋に憧れるようなことはない。ただ、大人の対応と、どんなに恋をしたとしても、傷つかない距離を保ちつつ、うまくやっていく大人たちの行動に圧倒されてしまう。ギラギラと女に飢えたような男は存在せず、どちらかといえば女の方が今風に言うと肉食系なのかもしれない。女の本性だとは思わないが、隠れた欲望的なものを感じずにはいられない。

作中では子どもを持つ女が一人しか登場しないのも特徴かもしれない。その女は恋愛することなく、夫に密かな恋人が登場するという気の毒な役回りだ。登場する女たちは、仕事も順調でプライベートも充実していながら、どこかで男を求めている。すべてに余裕があるからこそ、恋に手をだすのだろう。生活に困窮し、先の見えない状態では大人の恋も成立するはずがない。物語の全体をとおし、落ち着きというか、地にしっかり足がついた安定感を感じてしまう。

余裕のある大人たちは、こんな恋をするのだろうか。



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