アヤツジ・ユキト 1987-1995 綾辻行人


2011.10.5  作者の知られざる一面 【アヤツジ・ユキト 1987-1995】

                     
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■ヒトコト感想

作者のファンならば読むべきだろう。作品からは読みとれない作者の人となりが見えてくる。京都大学院時代にデビューし、そこから95年まで、ちょっとしたエッセイや雑文、あとがきまですべてが収録されている。あとがきはどうでもよいが、それ以外の作者のプライベートが垣間見える記述は非常に興味深い。本作を読む前提条件として、この時代に発表された作者の作品はすべて読んでおくべきだろう。作者が語る生みの苦しみや、作家としての苦悩。趣味のことや、ゲーム好きだったりと、想像していた作者像とかなり違っていたので驚いた。さらには、作家という仕事の辛さがヒシヒシと伝わってくる。他の作家のエッセイを読んでも、欝になるほど苦労しているというのは、聞いたことがない。

■ストーリー

『十角館の殺人』での衝撃的なデビューから八年四カ月の軌跡を、綾辻行人自身とともに振り返る。エッセイ、解説、書評から推薦文、あとがきに至るまで、この間に発表されたすべての「小説以外の文章」を、詳細な脚注と各年の回顧録をつけて完全収録

■感想
作者のファンは読むべきだが、ファンでなければまったく読む必要がない、そんな作品だ。あとがきは今までの作品のあとがきをまとめただけなので、どうでもいい。それ以外の作者の解説や、書評や、その他の雑文は非常に興味深い。作品だけを読んでいても、作者がどのような人物なのかほとんどわからない。読者は勝手に想像するのだが、そのイメージとかなり違った。気難しく几帳面で、神経質なほど綺麗好きであったりするのかと思いきや、本作から感じる印象は、わりとノンビリとし、ギスギスした雰囲気がない人なのだなぁということだ。

作中では、遅筆ということを嘆いたりもしている。確かに構想に何ヶ月だとか、筆がすすまないという描写が多い。それほど作品を乱発する作者ではないことはわかっていたが、これほど作品を生み出すのに苦労しているとは思わなかった。病弱で、うつ病の化があるという記述まである。作家という仕事が大変だということはわかるが、病気になるほど肉体と精神を削りながら作品を生み出していたのだろう。プライベートな描写では、結構楽しそうに趣味に力を入れているようだが、そこでも、小説のことを忘れたことがないというほど、厳しい状況のようだ。

マージャンがプロ級で、ロックバンドのボーカルをしていたというのは一番驚いた部分かもしれない。作者のイメージにはない部分だ。それ以外には、”本格ミステリー”という枠組みでくくられることが、なんだか気にいらないようで、独自のミステリー論を描いている。そして、まぁ、作家としては定番かもしれないが、小さいころから本を読みまくっていたというのがある。作者がどのような作品に興味があり、どのジャンルの映画が好きなのかなど、今までの作品を思い返してみると、納得の趣味だと感じられる記述もある。

作者の中では比較的ハイペースで作品を発表していた時期なのだが、それで遅筆だというなら、今はどうなるのだろうか。



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