頭は帽子のためじゃない 阿刀田高


2012.9.28    小説家になる素養は何か? 【頭は帽子のためじゃない】

                     
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■ヒトコト感想

作者のエッセイには様々なバリエーションがある。本作は、とりわけ職業作家としてのエッセイが多いような気がした。まずは作家として”書く”ことのエッセイが続き、その後、本を”読む”ことのエッセイへと繋がっていく。楽しむために読むのか、職業として読むのか。作家という職業がどのようなもので、四六時中仕事のことを考え続けることも可能だという。幼少期に作文が不得意だった作者。どのようにして文章を書く能力を高めたのか。今考えれば、という形で過去の経験が描かれている。波乱万丈の人生ではないが、30代の中盤から作家となった作者の、作家としての取り組みかたがよくわかるエッセイかもしれない。

■ストーリー

脳細胞っていう奴は、元来怠け者なんです。少しでも暇があると、すぐ休もうとするんです。それでなければ、「頭は使えば使うほど、よくなる」と言われる訳がありません。とくに最近は、面白い頭の使い方をする人が少なくなってきました。それでこの本のタイトルの登場です。独自の発想と着想をする著者が、頭の使い方を考えてみました。

■感想
”書く”のは作家だから当然得意だろう。子どものころは科学者になりたいと考えていた作者。まさか大学志望時に、文系と理系両方を受けているとは思わなかった。普通ならば、大学入学時にある程度自分の適正というのはわかるはずだが、作者はひたすら悩み続けたようだ。就職時も希望の職種が新聞記者ということで、文章を書くということに魅力を感じていたのは間違いない。そこから国立図書館の職員となり、雑文を書きながら作家となる。小説家になりたくてなりたくて、というわけではないようだ。

本作を読んでいると、なぜ作者が小説家になったのかというのがよくわからない。科学が好きな少年時代。多少の読書はしていたとしても、作文が苦手な少年時代をすごす。もしかしたら、多少の読書といいながらも、実はとんでもない読書量なのかもしれない。精読し、内容をしっかり覚えているというのもポイントなのかもしれない。どうしても考えてしまうのは、小説家になりたいと努力するよりも、やはり最後は何かしらの才能が影響するのだろうかということだ。作者の飄々とした語り口のエッセイを読んでいると、そう思わずにはいられない。

作者のエッセイ集の中では、プライベート色の強い作品だ。プロ野球は阪神ファンで、独自に野球界のベストナインを選んだりもする。さすがにこのあたりは時代を感じずにはいられない。今は引退しコーチとなった篠塚が、新人だが将来性をかってベストナインに選んだ、なんて記述があると、かなりの大昔に感じてしまう。奥田英朗のように選手を面白おかしく揶揄するというのはないが、作者がライトなプロ野球ファンだということはわかる。作者の小説を読んだだけではわからない部分だ。

作者のファンならば、間違いなく読んでおくべき作品だろう。



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