飛鳥のガラスの靴 島田荘司


2013.7.22     ミステリアスな民話 【飛鳥のガラスの靴】

                     
島田荘司おすすめランキング

■ヒトコト感想

日本古来の民話が、ミステリアス感を高めている作品。いつものごとく吉敷は自分を追いつめながら捜査を続ける。通子との関係がうまくいかないことから自暴自棄となり、手をださなくて良い仕事に手をだし、自分の立場を危うくする。右手首だけ郵送され行方不明の俳優を探す吉敷なのだが、その過程がすばらしく緻密だ。

限られた時間の中で、どのようにして真相にたどりつくのか。ある程度確信をもって捜査を進めるが結果がでない。そしてついに…。推理が大きく前進する瞬間というのは、なんだか心地良い。いつも以上に時間に追われ、せっぱつまった吉敷の行動というのは、読者をハラハラさせる。トリックは必ず暴かれると信じていながらも、不安な気持ちで読み進めた。

■ストーリー

映画俳優の大和田剛太の自宅に、差出人不明の郵便小包が届いた。なかから、塩漬けにされた剛太の右手首が…。剛太自身は行方不明のまま、事件は迷宮入りの様相を呈した。警視庁捜査一課の吉敷竹史は、この管轄違いの事件に興味を抱く。彼は主任と衝突しながらも、敢然とこの難事件に挑むが…。日本古来の民話を題材に、本格推理の鬼才が描く長編力作。

■感想
有名俳優の失踪。手がかりがないまま、むちゃな期限で調査をすすめる吉敷。ひとつのヒントを頼りに、相変わらずのフットワークで日本各地を飛び回る。もはや吉敷の代名詞といっていいほど、同僚や上司と捜査方針についてもめる。

他人の捜査に首を突っ込むことが、どれだけおきて破りかわかっていながら、自分の思うまま、納得できないことは突き詰めずにはいられない。吉敷の執念ともいえる調査には、圧倒されずにはいられない。日本各地を移動し、微かな手がかりを頼りに、真相へ近づいていく。この流れはまさに吉敷シリーズの真骨頂だ。

吉敷が捜査する上で浮かび上がってくる民話。いかにも怪しげで、その作者である女の神秘的な雰囲気から物語を不思議で奇妙なものにしている。事件は、何が人をそこまで深く傷つけるのかわからないことが原因だ。

他人からは評判の良い大和田が失踪した原因を、吉敷は最初から最後まで怨恨の線を崩すことはない。他人の意見に惑わされず、自分の考えに責任を持つ吉敷。その代償として、失敗した場合にはとんでもないリスクがまっている。この吉敷の一匹オオカミ的ながら、高い能力を示す部分はしびれてしまう。

物語の結末はかなりインパクトがある。ボロボロの吉敷が見つけた真相は、実はすべて幻覚だったのか。一週間という期限の中で事件を解明しようとするあまり、脳が幻覚を見せたのか。その強烈なインパクトは、物語をスリリングにする。

まさか、そんなはずはと思いながら、もしかしたらという不安な気持ちもある。吉敷シリーズは、最後には吉敷がすべて解決してしまうという流れはある。が、必ずしも吉敷が幸せになっているわけではない。シリーズ全体を通して漂う陰鬱な雰囲気が、シンプルな解決を疑わせる要因となっている。

民話を元に、苦戦しながら捜査する吉敷の姿は、まさにシリーズ上位のできかもしれない。



おしらせ

感想は下記メールアドレスへ
(*を@に変換)
pakusaou*yahoo.co.jp