明日のマーチ 石田衣良


2012.1.22  男4人の徒歩の旅 【明日のマーチ】

                     
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■ヒトコト感想

山形の工場で派遣切りにあった男4人が、東京まで徒歩の旅にでる。派遣切りの実情と、派遣社員が正社員へと這い上がる難しさが描かれるかと思いきや、旅物語となっている。山形から東京まで徒歩で旅するとはどういうことなのか。ひたすら歩き、腹が減ればその辺の店で食事をし、寝るのは野宿。季節が夏であれば日本は野宿でも生活できるのだろう。派遣切りの悲壮感よりも、野宿の旅の楽しさばかりが印象的だ。野宿には何が必要で、どんなルールがあるのか。仕事に疲れた現代人が、ふと原始的な生活に憧れるのに近いかもしれないが、ものすごく魅力的に思えた。何かをアジテートするために歩くのではなく、ただ楽しいから歩く、そんな感じだ。

■ストーリー

時速4キロの行進に特に意味なんてない。だけど―野宿して見上げた満天の星の下で、廃校の暗い教室で、気がついた。この国は思ったよりもキレイだし、俺たちって思ったよりも逞しいんだ。哀れんでなんか欲しくない。4人のマーチは、やがて数百人の仲間を得て、国をも動かすムーブメントになっていき…。

■感想
派遣切りにあった男4人。山形から東京まで時速4キロで進む。それぞれ事情はあるにせよ、派遣社員となりそこから這い上がることのできない男たち。突然の派遣切りに対する不満もあるが、それがメインではない。山形から東京までの徒歩の旅の中、この日本では野宿でも十分生活できる環境にあるということがわかる。普通に考えれば、「なんのために?」という思いしかない。ただ、本作を読むと徒歩の旅が非常に魅力的に思えてくる。ただひたすら歩くがそこには自由があり、解放された空間がある。日々の生活に縛られた現代人には、到底得ることのできない空間だろう。

明日のマーチとして歩く4人にはそれぞれ問題がある。ネットを通じて有名になると、有名税と言うべき問題が浮き上がってくる。そこでこの徒歩の旅はどうなるのか。有名になりすぎり、マスコミにちやほやされると、そこで何かしらメンバー間で軋轢が生じるはずだ。本作でもそのあたりが大きな山になるかと思いきや…。ブログを通して日本中の派遣切りにあった人たちの賛同を得るというのが、いかにも今風だ。ひどく原始的な徒歩の旅をしながら、テクノロジーをフル活用するのが物語のポイントなのかもしれない。

正社員として日々忙しく生活している人たちが本作を読むと、羨ましくなるだろう。派遣切りという厳しい状況には同情するが、徒歩の旅というのはものすごく魅力的だ。ただ、旅の間は良いが、その後のことを考えると、普通の人は決断できない。本作でも、明日のマーチのその後が描かれている。最終的にはチュニジアのジャスミン革命のような、派遣切りに対して革命的な何かが起きるのかと思いきや、そうはならない。現実は現実として、一種のお祭り騒ぎで終わるところが、夢も希望もないが、これが現実なのだろう。

徒歩の旅という非日常には、どうしても憧れてしまう。



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