2013.1.14 世にも奇妙な物語的恐ろしさ 【明日物語】
阿刀田高おすすめランキング
■ヒトコト感想
身の毛もよだつような恐ろしさのつまった短編集だ。短編自体には強烈なインパクトはないのだが、最後にゾッとしてしまう。超常現象や幽霊のたぐいの恐ろしさというより、人の思いの怖さを実感してしまう。死んだ人間より、生きている人間の方が恐ろしいというのは、まさに本作のことかもしれない。中には作者の得意分野であるブラックジョークを絡めたものもある。「9合目の男」は、すべてがうまくいく一歩手前の状態で足踏みするが、遅かれ早かれうまくいくと楽観的に考える男。が、仕事に没頭した男の体自身も一歩手前だった。面白いのか恐ろしいのか。最後のオチの切れ味がすばらしい。「母にそっくり」などは、何もかも母親にそっくりな嫁をもらったが、あるひとつのことだけが母と違ったため、命拾いしたという話だ。恐ろしいというより、最後によかったなぁという感想をもってしまう。
■ストーリー
昨日ではなく今日でもない、不確かな時が待ち受ける日、それは明日。平凡な人間の営みに忍びよる思いがけない恐怖を描く掌篇小説
■感想
読み終わった瞬間に、恐ろしさで体に鳥肌が立ったのは「ホームタウン」だ。ピザの配達員が注文を受けるが決して顔を出さないマンションの住人がいた。その住人は女性で美人らしいのだが…。ある日、ピザ配達員が突然蒸発し、その後マンションの住人からはピザが2枚注文され始める。男はその話を聞き、マンションの住人の顔をどうしても見たくなり…。読み終わった瞬間、ゾッとした。世にも奇妙な物語的な余韻がある。誰もが想像する展開なのだが、瞬間的な怖さがある。声に出して読むと、より恐ろしいかもしれない。
「発明の母」は、恐ろしさはないが、たくみにパターン化した面白さがある。男の妻は発明が趣味だった。自分が不便だと思ったことを解決するモノを発明する妻。ある日、妻は自動でペットにエサを与える発明を考えた。ただ、男の家ではペットは飼っていないが、寝たきりの母がいた…。必要に迫られて発明するという前ふりが散々続き、誰もが絶賛するすばらしい発明をする。その発明を思いついた動機は?と考えたとき、ブラックユーモアとしての面白さがふつふつとわいてくる。
「屋上風景」は、なんとなくオチが想像ついた。が、そこにいたるまでの主人公の葛藤ぶりが面白い。就職をひかえた学生が、有名商事のOB訪問をする。そこは激務で有名だが、高給でやりがいがあるらしい。OBを訪ねた先で、ある一人の男に出会う。男はこの会社はろくでもないと言うのだが…。就職するなら、厳しく激務だが高収入を選ぶか、それともそこそこの給料でノンビリ仕事をするのか。人によるのだが、本作のように経験者の話を聞くというのが良いのだろう。ただ、できれば生きている人が良い。
「ホームタウン」の印象が強いため、恐怖のイメージだが、恐怖モノ以外も充実した短編集だ。
おしらせ
感想は下記メールアドレスへ
(*を@に変換)
pakusaou*yahoo.co.jp