あるキング 伊坂幸太郎


2011.1.11  打率9割のバッター 【あるキング】

                     
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■ヒトコト感想

プロ野球選手となり仙醍キングスへ入団するために生まれてきたような男、山田王求。熱烈なファンの両親から生まれ、プロになるための生活を続ける王求のキャラクターが特殊だ。野球モノと言えなくもないが、青春物語や汗臭さはいっさいない。ただひたすらにプロ野球選手を目指し、投手が投げた球を打ち返すことだけを考えている。この特殊さにどれだけついていけるか。神の視点で王求の成長を見守るかたちの本作。純粋なハッピーエンドであったりスポ根ものではないため、拒否反応を示す人もいるかもしれない。強烈な能力を持つ王求が、最後までその能力を存分にはっきしたと思えないのが消化不良だが、これが作者の求めた世界なのだろう。相変わらずキャラクターは独特だ。

■ストーリー

弱小地方球団・仙醍キングスの熱烈なファンである両親のもとに生まれた山田王求。“王が求め、王に求められる”ようにと名づけられた一人の少年は、仙醍キングスに入団してチームを優勝に導く運命を背負い、野球選手になるべく育てられる。期待以上に王求の才能が飛び抜けていると知った両親は、さらに異常ともいえる情熱を彼にそそぐ。すべては「王」になるために―。

■感想
熱烈な仙醍キングスファンの両親から生まれ、将来はプロ野球選手になることが決まっている山田王求。主役である山田王求とその両親は、いつもの作者のキャラクターらしく、一つの目的に向かってほかのことにはいっさい目もくれず爆進するタイプだ。かといって、情熱的な熱血野球少年であったりするわけではなく、冷静で感情の起伏がなく淡々と目的をこなすという感じだ。このキャラクターの存在によって、野球モノにありがちな汗臭さや根性論というのがいっさいない。あるのは、ロボットのように正確で強力な野球の能力だけだ。

作者はプロ野球ファンなのだろうか。ありえないほど強烈な能力を持った山田王求が、対戦するプロの投手からホームランを連発し9割近い打率をほこる。普通に考えると荒唐無稽すぎるが、マンガ的で面白い。ずば抜けた能力で万年最下位の仙醍キングスを優勝へ導くという少年漫画的な展開を少しは期待していたが、そうはならない。さすがにそこまで単純ではなく、作者独特のエッセンスが加えられ、ちょっと不思議でせつない終わり方となっている。中盤まではすっきりするようなシンデレラストーリーかと思っていたが、まったく違っていた。

山田王求は王になるために生まれてきた男らしい。そして、悲しい出来事やどんな困難にぶち当たったとしても、王求はひたすら相手投手の球を打つことだけを考える。王求の極端な思考はすでに人間味を感じることはできない。作者独特のキャラクターは、この手のタイプが多いが、王求はさらに強烈かもしれない。あまりにホームランを打ちすぎるため、敬遠ばかりされる王求にとって、プロの投手でさえも王求の欲求を満たすものではなかったのだろう。後半の王求は、ずば抜けた能力ゆえに悲しみさえ感じているように思えた。

野球の知識は必須ではないが、ないと楽しめないだろう。



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