暗黒館の殺人3 綾辻行人


2011.8.15  なかなかすすまぬ謎の解明 【暗黒館の殺人3】

                     
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■ヒトコト感想

1,2巻で蓄積された謎の一部が本作で明らかになる。ただ、本作はほぼすべて玄児と中也の会話なので、違和感がある。謎の肉の秘密や、浦登家にまつわる伝説など興味深いのだが、本作のページ数に比べると進みが遅いように感じられてならない。長大な物語なのはわかるが、状況説明だけで600ページを越えるというのはどうなのか。ラストには美しい姉妹の衝撃的な真実もあきらかとなり、物語を盛り上げている。数々の秘密が明らかとなったからといって、まだ物語の本質は見えてこない。江南と中也それぞれに記憶の曖昧さと、頭の中に浮かび上がる奇妙な言葉にどういった意味があるのか。本作では新たな事件が起きるわけではないので、淡々とストーリーが進むだけといった感じだ。

■ストーリー

恐ろしき浦登家の秘密がついに語られる。十八年前の“ダリアの日”に起こった不可解な事件―初代当主・玄遥の殺害。幼少の玄児が目撃した怪人物は、不可能状況下で忽然と姿を消した!?死に抗う妄念が産んだ館。その深奥で謎はいよいよ縺れ深まり…美しき双子姉妹を、信じがたい悲劇が襲う。

■感想
暗黒館で起こった二つの事件が、表向きはメインになっているが、真の謎は浦登家と江南と中也の関係だろう。記憶がなく言葉が話せない江南と、記憶に曖昧さが残る中也。本作では、人魚伝説をほうふつとさせる謎の肉の正体や、浦登家の秘密について語られている。それが、玄児と中也二人の会話だけで説明されているので、かなりもったいぶった印象ばかりが残る。本作を読み終わって感じるのは、これほどのページ数を使ったわりには、大きな進展がないということだ。ある程度予想通りだったからかもしれないが、それほど驚きはない。

本作の終わりには、美しい姉妹の秘密が明らかとなる。この秘密が暗黒館とどれほど関係があるのか。はっきりいえば、事件の容疑者から外れたというだけで、暗黒館の物語としてはそれほど大きなインパクトはないのだろう。不老不死伝説や、禁断の行為によって生まれてきた子供など、物語全体のカギになりそうな秘密は明らかとなったが、思ったほどの衝撃はない。淡々と進む物語の中で、特別新たな出来事が起こるわけでもなく、積み上げてきた秘密を少しづつ崩していくような感じだ。

4巻への布石はあるのだが、この段階でも探偵役が不在であり、江南や中也の真実も明らかにならない。ということは、そのあたりが物語りの真の謎なのだろう。館シリーズとしては最長の物語だけに、期待感は膨らんでくるが、いまのところ大きなどんでん返しがありそうな予感はしない。事件がそれほど不可能状態というイメージがなく、もともと怪しげな洋館だけに、どんな仕掛けがあろうともそれほど驚かないだろう。中だるみというか、あまりに長大すぎて少しテンションが落ちてしまったという感じだろうか。

4巻ではすべての謎が解けるのだろうが、今の段階では驚きの伏線というのは感じられない。



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