暗黒館の殺人1 綾辻行人


2011.7.14  気になるのは怪しげな儀式 【暗黒館の殺人1】

                     
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■ヒトコト感想

館シリーズの中でもだんとつの長さをほこる作品。4巻に別れた1巻目だが、予想通り人物紹介と奇妙な館の雰囲気作りが重視されている。冒頭からシリーズを振り返るような流れの中で、まずは江南が館の闇に取り込まれる。その後、物語は視点が変わるとはいえ、基本的に暗黒館の部外者である中也が物語をひっぱっていく。暗黒館はお決まりどおり、様々な人々が住んでいる。すべてを掌握する当主は当然として、美しい異形の双子や、怪しげな姿をした子供まで、奇妙さを演出するには十分すぎる登場人物たちだ。ただ、まだ導入部のため、小さな事件は起きるがミステリアスな雰囲気のみで、衝撃的な出来事は起きていない。怪しげな儀式は気になるところだが、本作は物語の助走段階といえるだろう。

■ストーリー

蒼白い霧に峠を越えると、湖上の小島に建つ漆黒の館に辿り着く。忌まわしき影に包まれた浦登家の人々が住まう「暗黒館」。当主の息子・玄児に招かれた大学生・中也は、数々の謎めいた出来事に遭遇する。十角塔からの墜落者、座敷牢、美しい異形の双子、そして奇怪な宴…。

■感想
館シリーズとして、いつもどおり「暗黒館」という普通では考えられないような怪しい洋館を舞台としている。この幻想的な雰囲気は、物語のベースとして重要なのだろう。江南が暗黒館へ訪れる最初から、中也が怪しげな儀式に取り込まれるあたりまで、物語の下地をしっかりと作りこんでいる。特に「暗黒館」に住む住人たちが、癖があるという言葉ではすまされないほどの、強烈な個性をもっている。美しい異形の姉妹や、若くして老人のような姿の子供まで、門番であるセムシ男など、作者のこだわりを感じるような登場人物たちとなっている。

定番として一つの事件が起こり、外部と連絡がとれなくなる。そこで行われる怪しげな儀式を含め、読者に想像させるような要素が多数ある。不老不死を連想させる人魚の肉の話や、代々受け継がれてきた奇形が生まれるという伝説など、サブリミナル的に言葉を散りばめている。一人部外者として暗黒館へ入り込んだ中也が、どのような体験をしていくのか。そこに偶然入り込む形になった江南は、どの段階で物語りに深く関わってくるのか。そして、すべてを解決へと導くはずの探偵役はいつ現れるのか。この段階ではまったく想像がつかない。

物語の助走段階である本作では、怪しげな雰囲気を味わうことはできても、物語の本質はまだ見えてこない。そのため、少し盛り上がりに欠けるようにも感じてしまう。いつになったら衝撃的事件が発生するのか。そして、どのような大どんでん返しを味あわせてもらえるのか。長い作品では、メリハリがないと辛い。この段階では謎が次々と登場するが、それらについて深く考察はされない。おいしい部分を小出しに目の前に出すだけだして、そこでおあずけをくらったような感じだろうか。

物語の基礎作りとしては良いと思う。当然だが、本作単体ではそれほど楽しめるものではない。



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