悪の教典 上 貴志祐介


2012.3.20   魅力的な悪のカリスマ 【悪の教典 上】

                     
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■ヒトコト感想

高いIQの教師が、自分の思うままに生徒や教師を操っていく。生徒たちから抜群の人気をほこり、教師たちから信頼されている蓮実。人気モノで誠実な教師という表の顔と、悪事をくり返す裏の顔がある男。蓮実がこれまでの悪事を告白する場面では、その人間ばなれした凶行に絶句してしまう。そして、それらがいっさい露見することなく、今まで平穏無事に過ごしてきた蓮実の完璧なる計画にもうならされる。物語は、蓮実の様々な仕掛けと、その結果が描かれつつ、かすかに蓮実の異常さに気付く存在を匂わせている。下巻では、蓮実対異常さに気づいた者たちの戦いになるだろう。蓮実がどのようにして、自分の平穏な生活を乱すものたちを排除していくのか。そこが一番のポイントかもしれない。

■ストーリー

とびきり有能な教師がサイコパスだったとしたら、その凶行は誰が止められるのか。学校という閉鎖空間に放たれた殺人鬼は高いIQと好青年の貌を持っていた。ピカレスクロマンの輝きを秘めた戦慄のサイコホラー。

■感想
どんなサイコパスであっても、すばらしく有能な教師という仮面を被れば、誰もその正体に気付くことはない。自分の生活に障害になりえるものは次々と排除していく。その手法があざやかであり、またどれだけ大胆な行動をとったとしても、蓮実であればどうにかして切り抜けるという安心感がある。本来なら吐き気をもよおすような悪事の数々のはずが、蓮実の行動を読んでいると、その悪の魅力の虜になってしまう。自分勝手で自己中心的ではあるが、あまりに鮮やかな手並みを読まされると、蓮実のファンになってしまうから不思議だ。

悪は悪なりにそこにしっかりとした悪の論理がある。それは決して一般社会では通じることではないが、蓮実の中の世界では常識となる。自分に害となるものは容赦なく消し去り、不安の目も根本から摘みとる。そして、自分の欲望に正直で、思うがままに行動する。いつかそれらの悪事はすべて白日の下にさらされると思いつつも、それを切り抜けてほしいという変な願望が生まれてきた。圧倒的な悪のカリスマ性と、それに感化される人々。蓮実の本性に気付いた一部のものたちとの対決が下巻ではメインとなるのだろうが、蓮実の活躍をなぜか期待してしまう。

上巻では蓮実の悪と、その犠牲者たちの話がくり返される。ここから、どのようにして蓮実が追いつめられていくのか。その伏線はあるのだが、蓮実ならば難なく突破してしまいそうな雰囲気がある。悪は最後に断罪されるというのがこの手の作品の定番だが、蓮実ならばもしかして、なんて期待をしてしまう。この魅力的なキャラクターが下巻ではどのように暴れまわるのか。まわりがあっさりと蓮実の軍門に下るのでは面白くない。蓮実をとことんまで追いつめつつ、最後には蓮実が逃げ切るという流れになるのではないだろうか。

どのようなオチになるかで、下巻の評価が大きく変わりそうだ。



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