悪人


 2012.2.6  先のないつかの間の逃避 【悪人】  HOME

                     

評価:3

■ヒトコト感想
ざらついた画面の質感が、登場人物たちの心の暗さを表しているような作品だ。ひとつの過ちから、真っ暗闇へと転げ落ちる。本作に登場する誰もが、事件や事故を起こす前からその兆候を匂わせている。どこか心を病んでおり、崩壊へと向かう雰囲気を持ち合わせている。裕一と光代の逃避行は、ただつかの間の逃避でしかなく、その先に未来はない。裕一の祖母や、殺された女の両親、そして、その事件に関わった者たちすべてが、心の闇をふりはらおうと、もがき苦しんでいる。まるで不幸の塊のような物語だ。すべての不幸を凝縮した物語であり、残された人びとの怒りや苦しみばかりが画面から伝わってくる。これほど直球で心の暗闇を表現する作品もめずらしい。

■ストーリー

土木作業員の清水祐一は、恋人も友人もなく、祖父母の面倒をみながら暮らしていた。馬込光代は、妹と2人で暮らすアパートと職場の往復だけの退屈な毎日を送っていた。孤独な魂を抱えた2人は偶然出会い、刹那的な愛にその身を焦がす。しかし、祐一は連日ニュースを賑わせていた殺人事件の犯人だった ――。

■感想
毎日同じことを繰り返す孤独な土木作業員である裕一が、出会い系で女と出会う。裕一の孤独感は、若者らしい明るく楽しいことと無縁ということが、孤独感を際立たせているのだろう。裕一が乗る車や、髪を金髪にしていることから、都会的な若者に憧れをいだいていることがわかる。そんな裕一の理想像そのままの男が登場し、女をかすめとられる。裕一の瞬間的な怒りというのは、今までの孤独でつまらない田舎生活に対する怒りのすべてが噴出したのかもしれない。その怒りをすべて向けられた女は、ただ偶然とはいえ不幸でしかない。

すべての登場人物が、どこか心の奥底に闇を抱えている。出会い系にはまる女に、合コン三昧の男。悲しいのは、それらと繋がりがあるだけに、大きな悲しみを背負う者たちだ。娘が殺され、嘆き悲しむ母親。父親はひとり復讐に燃える。孫が殺人の容疑者として警察に追われている状況で、マスコミの標的にされる老婆。辛く苦しい境遇の中で、すべてを超越するような魂の叫びのようなものを感じずにはいられない。この強烈なメッセージ性が、常に物語からあふれ出ている。

物語の暗さや苦しさに拍車をかけているのが、役者たちの強烈な演技だろう。若者たちの演技はさておき、裕一の祖母と、殺された女の父親はすさまじい迫力だ。世界中の不幸をすべて背負ったような境遇のはずが、目には悲しみよりも力強さがある。怒りとは違う、やりきれない思いというのが伝わってくる。虐げられた人生を送ってきたのか、それともひっそりと暮らしてきた人生の最後の最後に、こんな仕打ちをした神様に怒りをぶつけたいのか。この二人の演技が、本作のすべてを語っているといっても過言ではない。

終始暗く、そして、陰鬱な物語だ。



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