赤×ピンク 桜庭一樹


2011.9.15  K-1ブームにのったのか? 【赤×ピンク】

                     
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■ヒトコト感想

K-1ブームにのるような形で、ちょっと変わった格闘技に熱を入れる女の子たちを描いている。格闘技といっても暑苦しいスポ根ものではなく、心に悩みをもった女の子たちの少し変わった生活に焦点が当てられている。非合法のガールファイトに参加するという、どこか壊れた状況で、女の子たちは戦いをくり広げる。ショーとしての戦いと、それが終わった後におとずれる日常。三人の女の子それぞれの生活を描いているのだが、どれも普通ではない。どこか心に小さな穴が空いたような女の子たちばかりだ。格闘技という特殊な状況がなければ、ごくありきたりな作品かもしれない。読み方によっては、ゆがんだ性の衝動を格闘技に投影しているようにも感じてしまう。

■ストーリー

東京・六本木、廃校になった小学校で夜毎繰り広げられる非合法ガールファイト、集う奇妙な客たち、どこか壊れた、でも真摯で純な女の子たち。体の痛みを心の筋肉に変えて、どこよりも高く跳び、誰よりも速い拳を、何もかも粉砕する一撃を―彷徨のはて、都会の異空間に迷い込んだ3人の女性たち、そのサバイバルと成長と、恋を描いた、最も挑発的でロマンティックな青春小説。

■感想
作者はなぜ格闘技を選んだのか。K-1ブームの際に作者自身が空手を習っていたようだが、その影響だろうか。六本木で夜な夜な行われる非合法のガールファイトを題材にし、そこに登場する女の子たちは、ステレオタイプの病んだ女の子ではない。普通な感じがするが(ガールファイトを夜中にやっている時点で普通ではないが…)少し変わっている。何を目的にガールファイトをやっているのかがしっくりこない。SMや同性愛など、そのあたりの性の問題を微かににおわせつつも、女の子たちの何かから逃げ出すような生活を描いている。

愛だとか恋だとかいうロマンチックな部分はほとんどない。格闘技にしても、ただそこに存在しているだけで、戦いに負けたからといって何かあるわけでもなく、勝つために必死に努力するというのでもない。スポ根ものとは対極をなしている。十代後半や二十代前半の女の子たちが悩むことを、格闘技をやっている女の子が同じように悩む。少し違うのは、格闘技やそこで出会う仲間たちが、良い息抜きになっているということだ。悩み苦しみうじうじするのではなく、格闘技をあいまに入れることによって、健全な雰囲気になるから不思議だ。

三人の中で印象に残っているのはSMの女王だ。愛や恋や戦いというのを、すべてSMという非日常の世界で覆いつくしているような感じだ。恋する相手が、SMの常連客であり、二人だけの世界が必要だという。そんな関係であれば悩み苦しむところ、格闘技によってなんだかやけにすっきりとした結末のように思えてくる。登場人物たちが悩みそのものをはっきりと苦にせず、状況から推理するしかない。少し変わった女の子たちが、自分たちの世界をどうやって作り上げていくのか。また、世界から脱出するのか。おじさんにははっきりとした結末を感じることができなかった。

格闘技ブームにのった安易な作品ではない。



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