Pの密室  


 2013.10.22     幼稚園児でも御手洗だ 【Pの密室】

                      評価:3
島田荘司おすすめランキング

■ヒトコト感想

幼少期の御手洗潔が大活躍する作品。幼少期といっても、最初は幼児だ。普通に考えればありえない。が、御手洗ならありえると思えてくるから不思議だ。幼少期と言えども御手洗はサラリと推理を展開する。それでいて、子供であるがゆえに自由に動き回ることができない。この不自由さと、大人たちの偏見により御手洗の調査がうまくいかない。この微妙なもどかしさが物語を面白くしている。

後半の「Pの密室」は、奇妙で恐ろしい密室殺人事件だ。それを小学生の御手洗が鮮やかに解明するのだが…。刑事たちが最初は御手洗をバカにしていたが、しだいに御手洗の言葉を信じ、何もかも言いなりになるあたらいが面白い。この流れは大人の御手洗とほとんど変わらない。

■ストーリー

完全な密室で発見された残虐な刺殺体。周囲のぬかるみに足跡も残さず消えた犯人。そして現場の床に整然と敷き詰められた赤い紙の謎。幾重にも重なる奇怪な状況に警察は立ち往生するが、小二の御手洗少年は真相を看破する。表題作ほか名探偵・御手洗潔の幼少期を描いた「鈴蘭事件」収録。ファン垂涎の一冊。

■感想
「鈴蘭事件」は、幼稚園児の御手洗がありえないような活躍をする。幼い御手洗が、幼さの中にも冴えた推理を展開する。大人とは違い、子供らしい優しさまで持ち合わせている。事件自体の不可解さより、幼い御手洗が事件の証拠を守ろうと必死にトラックを追いかけたりと、大人の御手洗では想像できない部分に注目してしまう。

まだ未完成でありながら、大人顔負けの推理を展開する。この未完成部分に興味をそそられる。事件の全容が明らかになったとしても、子供心にショックを受けた御手洗は、その後口を閉ざしてしまう。ナイーブな部分も秀逸だ。

「Pの密室」は、まさに本格的な密室殺人事件だ。それを小学生の御手洗が鮮やかに解決する。犯人の目星がついているにも関わらず、結論をはっきり言わずもったいぶるのは、大人の御手洗と変わらない。周りの大人たちのやきもきする姿が目に浮かんでしまう。

小生意気な小学生であることは間違いない。「名探偵コナン」のように自分が幼いことを武器にするわけでもなく、大人と同じスタンスで事件を解決しようとするのが、若干イラっとくるかもしれない。それでも、小学生なりに事件を考え、正しく解決しようとするその姿はすばらしい。

御手洗のバックグラウンドがよくわかる本作。今までは御手洗が次々と隠された能力を発揮し、それに驚くというパターンだった。本作を読むことで、両親がかなりの変わりもので、少なからず御手洗はその影響を受けているということがわかる。

一歩間違えれば変人と言われかねない危険な状況にありながら、まっとうに育ったのには、隠された理由があるのだろう。本作ではそのあたりは明らかになっていない。御手洗シリーズのファンならばぜひとも読んでおくべき一冊だろう。

幼さを垣間見せる御手洗の姿は新鮮だ。




おしらせ

感想は下記メールアドレスへ
(*を@に変換)
*yahoo.co.jp