64 横山秀夫


2013.3.13    警察はとんでもない組織だ 【64】

                     
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■ヒトコト感想

警察組織の強烈な縄張り意識を描かせたら、作者の右にでる者はいないだろう。一般人からすると、警察とひとくくりに見てしまうが、内部的な争いのすさまじさは、常人の想像を超えている。娘が家出をした三上が、広報官として記者クラブや、上司や刑事部の者たちと必死の交渉をする。

刑事の職業の特殊さもさることながら、広報官と記者クラブの対立関係も非常に興味深い。ジャーナリズムをかざす記者クラブと、人権を守るべき義務がある警察。相成れない二つの組織に板挟みになる三上の苦悩は、その後の未解決誘拐事件である64の亡霊に悩まされることにつながる。警察組織はそれぞれの持ち場を守ることで、組織として大きな力をはっきできるのだと思い知らされた。

■ストーリー

警察職員二十六万人、それぞれに持ち場があります。刑事など一握り。大半は光の当たらない縁の下の仕事です。神の手は持っていない。それでも誇りは持っている。一人ひとりが日々矜持をもって職務を果たさねば、こんなにも巨大な組織が回っていくはずがない。D県警は最大の危機に瀕する。警察小説の真髄が、人生の本質が、ここにある。

■感想
記者クラブと広報官の対立から始まり、64という未解決誘拐事件の秘密と、64を模倣した新たな誘拐事件が解決し、終わりとなる。最初から最後まで、警察内部の縄張り争いのすさまじさを感じずにはいられない。広報官と記者クラブが、情報の出し方により大きな争いとなる。

記者クラブの横暴に思えなくもないが、一般人が感じる警察の不正をただすという意義に燃えるジャーナリストたちの意気込みというのを感じずにはいられない。記者クラブと警察は馴れ合い関係だという先入観を崩される思いがした。

警察内部の縄張り争いを描くと、避けて通れないのはキャリアたちの動向だ。ノンキャリアたちからすると、キャリアは神のような存在だ。本部長がまさに神だというのが、本作を読むと感じることができる。普通の組織とは違う、警察だからこそ起こりうる現象なのかもしれない。

有象無象と駆け引きする強面の刑事たちも、神には触れることができない。ただ、自分たちの象徴である刑事部長という椅子を奪われるとなると、反乱を起こしかねない。矛盾するようだが、組織の強固なピラミッドばかりが強く印象に残っている。

64を模倣した誘拐事件が発生し、三上は広報官として情報収集にあたる。最後の最後で、刑事とはなんてすばらしい職業だろうと思ってしまう。そして、裏で特命を受けて暗躍していた二渡に対しても、いっきにイメージが変わる。

警察組織は、目の前の事件を処理することも大切だが、もっと大局を見て動くことも重要なのだろう。模倣誘拐事件のミステリアスな動向と結末。そして、本庁に対抗するためD県警がとった行動の数々というのは、読み終わると非常に理にかなっていると思わずにはいられない。

一般人では知ることのできない警察内部の縄張り争いのし烈さを感じることができる良作だ。



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