三匹のおっさん 有川浩


2012.9.3    おっさんたちの活躍は痛快だ 【三匹のおっさん】

                     
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■ヒトコト感想

還暦を迎えた三人のおっさんが大活躍する痛快な物語。ありえないだとか、都合が良すぎるだとか、水戸黄門的展開で、最後は三人が必ずなんとかする、というワンパターンではあるが、この上なく楽しい。高齢化社会の日本では、60歳は老人ではない。自主的に始まった三人の世直しというのは、おせっかいではあるが、おっさんたちが程よい距離感で問題を解決していくのは面白い。勧善懲悪というか、悪がおっさんたちにぶちのめされるシーンというのは、若者が悪を倒すよりも爽快だ。社会の中では、その存在感が薄れつつある年齢ではあるが、十分活躍はできると世間にアピールするような作品だ。三人のおっさんが解決する問題は、残酷であったり社会問題であったり様々だが、こうも鮮やかに解決されると、すっきりとした気持ちになる。

■ストーリー

還暦ぐらいでジジイの箱に蹴り込まれてたまるか、とかつての悪ガキ三人組が自警団を結成。剣道の達人・キヨ、柔道の達人・シゲ、機械いじりの達人の頭脳派・ノリ。ご近所に潜む悪を三匹が斬る!その活躍はやがてキヨの孫・祐希やノリの愛娘・早苗にも影響を与え…。

■感想
還暦をむかえたジジイたちが世直しのために立ち上がる。三匹のオッサンが個性豊かで、何よりおっさんにも関わらず強いということがポイントかもしれない。チンピラに絡まれたり、ヤクザ風な男に脅されたとしても、毅然とした態度と時には相手をコテンパンに打ちのめしたりもする。本来なら弱い立場のはずのおっさんが、強さを示すと変なワクワク感がある。そして、相手にどんな脅しをされようと、正論で論破する。作者の作品では毎回思うのだが、議論シーンでは誰もが思っても言葉にだせないことを、作中のキャラは思いっきり主張する。この潔さが快感なのかもしれない。

おっさんだけでなく、孫や娘たちのちょっとしたロマンス的なものがあるのも秀逸だ。親思いの娘に、子離れしないおっさん。ぶっきらぼうだが心優しい孫と、それをうれしく思うおっさん。すべてが完璧ではなく、どこかに欠陥はあるのだが、それを含めておっさんたちの人生経験というか、人との距離感というのが絶妙かもしれない。なんでもイケイケな若者たちにはない、枯れてはいるが、それでもなお相手の心に響かせる言葉をつぶやくおっさんたちにしびれてしまう。

事件は残酷であったり、根の深い問題だったりする。おっさんたちは問題を根本から解決しようとせず、自分たちの身の周りさえ幸せになればよいというスタンスだ。これがまたすばらしい。全ての人の幸せのために、なんていう大きなことではない。悪をすべて断ち切ることは無理だとわかっているので、ごく狭い範囲の幸せを願う。おっさんたちが偏屈でくそジジイな一面を見せながらも、最後にはサラリと感動する言葉を語る。主役の三人が、若者ではなく女性でもなく、今まで空気のような扱いをうけてきたおっさんたちというのが、何よりすばらしい。

テレビドラマにしても、ぴったりくるようなストーリーだ。



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