3652 伊坂幸太郎


2011.8.1  エッセイが苦手な作者のエッセイ 【3652】

                     
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■ヒトコト感想

どうやら作者はエッセイが苦手らしい。すばらしく面白いエッセイを書く作家は沢山いる。それらと比べると、やはり苦手という雰囲気が作品からでている。ただ、作者の10年分のエッセイのため、デビューから現在にいたるまでの作者の変遷が読みとれる。会社を辞め、専業作家となったときの心境や、いろいろな人との出会い。そして、好きな作家の話や映画の話など、ファンにはたまらないかもしれない。丁寧な語り口と、怒りのイメージをまったく想像できない仏様のような考え方。イラついて何かに怒りをぶつけるというのがないので、インパクトがないのだろうか。エッセイというと、世間に物申す的なモノのほうが、一般的に面白くなりそうな気がする。

■ストーリー

「喫茶店」で巻き起こる数々の奇跡、退職を決意したあの日のこと、「青春」の部屋の直筆間取り図、デビュー前のふたりの恩人、偏愛する本や映画に音楽、「干支」に怯える日々、恐るべき料理、封印された「小説」のアイディア―20世紀「最後」の「新人作家」が歩んできた10年。

■感想
作者の初エッセイ集。といっても、特別な要素はない。思ったほど動きがないというか、エッセイのテーマがわりと似通ったものが多い。好きな作家についての思い入れや、注目した作品についての批評など、作者がどんな作品が好きで、普段はどんな本を読んでいるのかを知ることができる。もしかしたら、本作を読んだことで、作者の好きな作家の本を読んでみたいと思うかもしれない。本の批評については、登場した作品ほぼすべてが好意的に描かれているので、否が応でも気になってしまう。

エッセイが苦手ということで、かなり苦労して書いたのだろうとわかるものもある。面白エッセイを書く人というのは、少なからず誰かをバカにしたり、自分を卑下する部分をエッセイに盛り込んでいる。作者はそのような部分が皆無で、丁寧な語り口と、誰も傷つけない優等生的言葉の数々が、いまいちエッセイとして切れ味がない原因なのだろうか。作家として映画監督やミュージシャンと交流があったり、仕事はカフェでしていたりと、作者のプライベートの顔を知ることができるのは魅力的だが、エッセイとして大きく盛り上がるというほどではない。

作者のファンならば間違いなく読んで良いだろう。それ以外の人が、なんの予備知識もなしに、伊坂幸太郎という作家のことを知らないまま読んだとしたら、かなり厳しいだろう。売れっ子作家で、作品が次々と映画化され、直木賞候補にもなったことがある作者だということを前提において、初めて楽しめる作品かもしれない。作者はノンフィクションではなく、荒唐無稽な誰も考えつかないようなフィクションで、夢のある作品を書いてほしい。自分を赤裸々に語るエッセイには、手を出してほしくないような気がした。

作者の初エッセイということで、賛否両論あると思うが、ファンは読むべきだろう。



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