夜明けの街で 東野圭吾


2010.3.26  男のずるさと女の恐ろしさ 【夜明けの街で】

                     
■ヒトコト感想
不倫なんてするはずがないと思っていた男が不倫をし、その相手が実は殺人事件の真犯人かもしれないと考え悩む物語。はっきりいえば、殺人事件の真犯人がどうだとかというのは、実はあまり問題ではない。本作は不倫するということがどういったことなのか、そして、そこに付随するリスクや、男の気持ちなどをリアルに描いているような気がした。男は家庭を守りたいと思いながら、不倫相手を失いたくもない。都合の良い男の理論だが、それが男の本心なのだろう。ミステリーとしてのトリックを楽しむだとか、犯人を予想するという類のものではない。男の覚悟と、女の恐ろしさを感じさせる作品だ。とくに渡部の妻にいたっては、不倫を知っていたのか知らなかったのか。このあたりをぼやかすあたり、作者のうまさを感じてしまう。

■ストーリー

渡部の働く会社に、派遣社員の仲西秋葉がやって来たのは、去年のお盆休み明けだった。僕の目には若く見えたが、彼女は31歳だった。その後、僕らの距離は急速に縮まり、ついに越えてはならない境界線を越えてしまう。しかし、秋葉の家庭は複雑な事情を抱えていた。両親は離婚し、母親は自殺。彼女の横浜の実家では、15年前、父の愛人が殺されるという事件まで起こっていた。殺人現場に倒れていた秋葉は真犯人の容疑をかけられながらも、沈黙を貫いてきた。犯罪者かもしれない女性と不倫の恋に堕ちた渡部の心境は揺れ動く。果たして秋葉は罪を犯したのか。まもなく、事件は時効を迎えようとしていた・・・。

■感想
すべての世の妻たちが本作のように、夫と別れることに対して慎重になっているとは思わないが、ある意味正しいことなのだろう。夫だけが幸せになるのが許せない。妻の執念というか、不倫がばれて開き直ったとしても、そこには地獄しか待っていない。なんだか妻帯者に対して、恐ろしさを植えつけるための作品のように思えて仕方がない。特に、ラストのおまけ的作品では、不倫の恐ろしい結末が描かれている。家庭は崩壊しつつも、そこから抜け出すことができない。希望が見出せないまま、別れられず針のムシロのような生活を強いられる。強烈だが、これがリアルな現実なのかもしれない。

時効直前の事件に関わっていると思われる秋葉。前半部分で、海外旅行に行ったなどという描写があることから、日本にいた期間の時効うんぬんという流れになるのかと思った。ある意味結末は意外だったが、本作は事件解決がメインでないために、それほどの衝撃はない。物語全体として、不倫する男のむなしい努力やアリバイ工作。そして、自分は家庭があるくせに、不倫相手には一途な姿を求める男のあさましさ。はたから見ると、見苦しいことこの上ないが、その行動には納得してしまう。相手の気を引くために良い言葉を並べたかと思うと、相手が本気になると、とたんに腰が引けてしまう。まぁ、これが男の本性なのだろう。

ただの不倫でさえも、離婚の社会的リスクはとても大きい。それが、不倫相手が犯罪者かもしれないという状況になれば、さらにハードルは上がるだろう。本作の渡部は、それらのハードルを軽やかとはいえないが、必死に飛び越え、そしてゴールまで突き進もうとする。渡部の妻はこの渡部の行動に気付いていたのか。作中では、最後にほんの少しだけそれを匂わす部分があるが、はっきりとした描写はない。だとすると、不倫に気付いていながら、円満な夫婦を演じ、夫が目を覚まして帰ってくるのを待っていたということだろうか。もしそうだとしたら、それが何よりも強烈で恐ろしく感じてしまった。

男の気持ちをリアルに表現しているだけに、恐ろしい。



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