約束の旅路


 2009.8.27  人の根幹にかかわること 【約束の旅路】  HOME

                     

評価:3

■ヒトコト感想
アフリカ系ユダヤ人というのが存在することをはじめて知った。宗教がこれほど人の根幹に関わるというのも、衝撃的だった。難民キャンプからユダヤ人だと偽りイスラエルへやってきた少年。イスラエル人家族に引き取られてからも、後ろめたい気持ちと、母親のことを忘れることができない。これほどまでに、人格を超えて宗教というのが深く入りこんでいるのは、日本人にはあまり想像できないだろう。新しい土地で心細い中、生活する少年。どんなに長くその場にいて、コミュニティーを築いたとしても、どこか心の奥底には、引っかかる気持ちがあるのだろう。宗教に縛られるのはおかしいと思うのは、宗教意識が薄い日本人だけ。これは切実な問題なのだろう。

■ストーリー

イスラエルが行った実在の難民移送作戦“モーセ作戦”を題材にしたヒューマンドラマ。ユダヤ人と偽り、スーダンの難民キャンプからイスラエルへと脱出した9歳のエチオピア人少年。真実の名前を隠し新しい土地で生きる少年の葛藤と苦難の人生を描く。

■感想
ユダヤ人だと偽ってイスラエルへ亡命したエチオピア少年”シェロモ”。イスラエル人家族に引き取られ、何不自由ない生活をしていたとしても、心の奥底では捨てきれない何かがある。母親と離れ、ユダヤ人としてイスラエルで生活する。宗教で全てのことが決まってしまうような世の中に違和感を感じるのは、日本人だけだろう。世界の国々ではそれほど宗教は大切なことなのかもしれない。アフリカ系ユダヤ人というのはまったく知らなかった。イスラエルが”モーセ作戦”を行っていたことも知らなかった。衝撃的事実だらけだ。

すべてが宗教で決まってしまう現実。シェロモにしても、もしユダヤ人だと偽らなかったら、そのまま難民キャンプでのたれ死んでいたかもしれない。それが、きれいな家に、立派な部屋を用意され、やさしい家族にかこまれて生活ができている。それほど宗教というものが、人の全てを決めるのだろうか。シェロモはシェロモで何の変わりもないはずだ。シェロモの考えかたは、どちらかといえば日本人に理解しやすい。しかし、その環境にどっぷりつかったシェロモにとって、宗教がもつ意味の大きさを日々実感していたのだろう。ラスト間際に自分の出自を告白することにためらうのは、その後まわりがどう反応するか、想像できたからだろう。

アフリカ系ユダヤ人を養子としたイスラエル人の思い。どうしようもない差別の嵐というのは、シェロモを引き取った家族にも容易に想像できただろう。それでも、偽善以上の気持ちでシェロモを引き取ったのだろう。物事の側面からしか見ていないと、イスラエルに対してはあまり良いイメージはない。パレスチナとの紛争がそう思わせているのだろう。しかし、実際には宗教的な意味合いを超えて、人の善意というのは存在するのだと思わせられた。ユダヤ人というくくりをとっぱらい、一人の人間として見る。このことがひどく重要だということをわからせる作品のように感じられた。

知らないことだらけで、非常に勉強になる印象深い作品だ。



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