「超能力」から「能力」へ 村上龍


2008.12.21  信じるかはあなたしだい 【「超能力」から「能力」へ】

                     
■ヒトコト感想
第一印象は間違いなく胡散臭いと思った。しかし、冒頭から村上龍がこの謎の”能力”をべた褒めしている。CDを聞くだけでエネルギーが注入され、体中の筋肉が緊張から開放される。そんなことがあるのか?半信半疑で読み進めた。なかには権威ある学者のような人物も登場し、このCDがいかにすばらしいかを力説している。「超能力」ではないと言い切りながらも、CDで相手にエネルギーを与えるというのはそう簡単に信じられるものではない。よくわからない怪しいネーミングと、テープよりも容量が大きいからCDの方が効果がある。なんてことをくそまじめに科学的に言われても、なかなか納得できない。しかし、これほど作中でガンガンに勧められると、人間というものはかならず気になってしまうものだ。しかし、最後の最後に提唱者である山岸さんが亡くなられているということで、暗示から目が覚めた。

■ストーリー

この「超能力」は、やがて必ず普通の「能力」になる。確かに存在する未知のエネルギーを作家の村上竜が体験。未知のエネルギー「TDE」を操る山岸隆は、「超能力」を「能力」へ還元する努力を今日も続けている

■感想
毎回この手のものを読むと思うことがある。およそ十年以上前の作品だが、これほどすごいのなら爆発的に話題になるはずだろうが、そうはなっていない。売れっ子作家がここまで書けば、それなりに気になる人も沢山いるのだろう。にも関わらず、このCDの存在を自分が知らないということは、そういうことなのだろう。冒頭に村上龍の言葉があるのだが、それによってかなり真実味は増してくる。しかし、読んでいくうちになんだかちょっと…という思いがわいてくるが、その思いを打ち消すように立て続けに権威ある人々のべた褒めが始まる。

おそらく、本作を読んだ人のほとんどが、作中に登場するCDを聞いてみたいと思うことだろう。ここまでプッシュされると誰でもそう思うのは当然だ。一般的なCDと比べると高価だが、本作の内容を信じると、買わずにはいられないかもしれない。現に買った人もいるだろう。もし、自分の近所にこのCDが売られていたら…。もしかしたら買っていたかもしれない。ほんの少し周りがよく見えて冷静になれば、それなりの判断ができるはずだが、盲信的になるのはしょうがない。現在の村上龍がこのことについて一切触れていないのは、それなりのモノだからだろう。

ある意味洗脳的力を持っている作品だ。自分の場合もかなりあぶなかったのだが、最後の最後にCDを作成した山岸氏が亡くなられたという文字を見て、一気に覚めた。そんなにすばらしいCDを供給した本人が早死にしているこの現実。本当に儲かる話を人に勧めるなら、自分でやればよいという原理と同じだ。本当に効果があるのなら、なぜ山崎氏は亡くなられたのだろうか。詳細は良く分からないが、世間のあちこちに転がっている怪しい儲け話と五十歩百歩なのではないかと思えて仕方がなかった。

ネーミングセンスが究極的に無いのも、あっさり覚めた原因なのかもしれない。



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