2009.4.9 ヨハネスブルグの恐怖 【ツォツィ】 HOME
評価:3
■ヒトコト感想
ヨハネスブルグがとんでもない町だと印象付けるにはもってこいの作品か?カージャックした車の中で赤ん坊を見つけ、それを密かに育てようとする。傍若無人で好き勝手に過ごしてきたツォツィが赤ん坊を育てることで、人間的心を取り戻すのか…。という流れのようだが、印象は違った。あくまでツォツィは自分が手に入れた赤ん坊を大事にしているだけで、その他の人間たちには、今までどおりに何の感情も持たない。赤ん坊と関係のある人間だけ重要視し、それ以外はどうでもよい。結局ツォツィ自身は赤ん坊を自分に見立て、大事にされなかった自分を慰めようとしているのではないかと思えた。仲間をあっさりと殺したり、自分勝手に強盗を繰り返す。ラストは改心したようにも見えるが、ただ赤ん坊との別れを悲しむようにも見えた。
■ストーリー
南アフリカ、ヨハネスブルグ。世界で一番危険なスラム。アパルトヘイトの爪跡が今も残る街に生きる一人の少年。本名は誰も知らない。ツォツィ=不良(ギャング・犯罪者を表すスラング)と呼ばれるその少年は仲間とつるんで窃盗やカージャックを繰り返し、怒りと憎しみだけを胸に日々を生き延びていた。名前を捨て、辛い過去を封印し、未来から目をそらし・・・。しかし、ある出逢いによって、ツォツィの人生は大きく変わり始める。奪った車の中にいた生後数ヶ月の赤ん坊。生まれたばかりの小さな命に、ツォツィの封印していた様々な記憶を呼び覚まされていく。
■感想
まず思ったのはヨハネスブルグというのは本当にこんな無法地帯なのだろうかということだ。スラムと隣接しており、どんなにセキュリティがしっかりとした豪邸であっても、あっさりと強盗に押し入られる。電車内や、路上での殺人が日常茶飯事のように、人々は自分勝手に行動する。このヨハネスブルグの恐ろしさばかりが強調され、スラム=無秩序という印象しか残らなかった。そこで生き抜くツォツィ。土管で生活し、そこから自分の家を手にいれギャングとして生計を立てる。仲間を仲間とも思っておらず、自分の思うがまま好きなように生きる。こんなツォツィが偶然赤ん坊を手に入れ、変わっていく。しかし、その変化が、人間的に成長したのか、それとも、ただ赤ん坊という自分が所有したものを自分勝手に守ろうとしているだけなのか…。
ツォツィの赤ん坊を守る行動に感動すべきだろうか。はっきりいえば、ツォツィはまったく変わっていないように思えた。自分のために、自暴自棄になりながら好きなことをやっていた昔。それが赤ん坊を手に入れたことで、自分勝手ではないが、赤ん坊を中心として行動するようになる。そこから命というものに対する考え方が変わったのは確かなのだろうが、どうしても、そこには屈折した思いを感じずにはいられない。弱いものには優しくするというような、どこか思い上がった考えというのを感じずにはいられなかった。足を折った障害者や、自分が育てる赤ん坊。自分の仲間たちに対しては、思いやりの気持ちはそれほど強くない。どこか独占欲が強く、自分勝手な印象はぬぐえなかった。
全てにリアルであると感じたわけではない。ただ、ヨハネスブルグの現状と、その恐怖の元凶であるスラム。そこに生活する不良たちの生き様。そうやるしか生活するすべがない。警察たちも諦めるほど、混沌としたスラム。それに隣接する高級住宅街。すべてに違和感を感じてしまった。ついでに言うなら、刑事が白人だったということも、何かを意味していたのだろうか。アパルトヘイトの傷跡とでも言いたいのだろうか。妙に鼻につく描写が多いのも本作の特徴かもしれない。しかし、これほど何かを感じさせるのは、物語として優れているからだろう。ツォツィの行動がどういった意味でのことかは、もしかしたら監督が意図したこととは間逆に捕らえてしまったかもしれない。それでも、作品としては十分に面白かった。
ヨハネスブルグに一番驚いた。
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