盗聴 真保祐一


2010.5.4  短編ならでわの面白さ 【盗聴】

                     
■ヒトコト感想
作者の作品は、綿密な取材力と練りこまれた構成力に特徴がある。ページ数も膨大でかなり重厚で読み応えのある作品が多い。本作は作者初の短編集ということで、どうなるかと思ったが意外なほど良かった。作者の特徴である壮大な物語ではないが、サラリとした中でも考えられたトリックがある。ぶ厚い作品に尻込みする人にはぴったりな作品かもしれない。どれほどすばらしい構成力があったとしても、長大な物語はやはり読み続けると疲れるものだ。本作は、それぞれに特徴があり、すっきりとした後味の良い良質なミステリーとなっている。短い作品の中で二転三転する物語。とても短編を読んでいる気分ではないが、しっかりとオチがついているのも良い。

■ストーリー

「な、何の真似だね、それは…。おい、気は確かか…」老人の声がうわずり、椅子が激しくきしむような音が上がった。違法電波から聞こえてきた生々しい“殺人現場”の音。「狩り」に出た盗聴器ハンターが都会の夜でとらえたものとは?

■感想
作者の作品は文庫で600ページ近くになるため、通常の長編小説の二冊分に相当するのだろう。その壮大な物語にのめり込み楽しむことはできるが、やはり疲れというのを感じることがある。さらには、テーマ的に合わないものであると、最後まで読むのが辛くなる場合もある。本作は作者のテイストを残したまま、短編としてコンパクトにまとめられている。短編ということで多少端折られている場面もあるが、小難しい説明や、薀蓄がなく、サラリとストーリーやトリックの肝となる場面だけを描いている。非常にわかりやすくとっつきやすい作品だ。

短編の中でもっとも印象に残っているのは間違いなく「私に向かない職業」だ。キャラクター描写も秀逸で、普通の探偵ものではない、特殊な雰囲気。それでいて複雑な設定のはずなのにすんなりと頭に入ってくる。決して手放しで喜べるような類の作品ではないのだが、ユーモアあふれる語り口が物語の深刻さを軽減している。このキャラクターを別の短編で登場させても面白いのではないだろうか。その他にも、表題作である「盗聴」や裏を考えざるを得ない「再会」など、気になる作品は沢山ある。

作者の特徴である重厚な物語というのはない。今までの作者のイメージからすると短編ということで薄口と感じるかもしれない。それでも、逆にそれがよかったりもする。綿密な取材にもとづいた知られざる業界の裏話的な物語も面白いのだが、ありえない状況で練りこまれたトリックだけで勝負するというのも、それはそれでよい。さすがにこの状態で長編は難しいのかもしれないが、短編ならばかなりしっくりとくる。作者の新たなる一面を見たような気がした。

作者の作品では、どちらかといえば重厚な長編よりも、短編の方が好みかもしれない。



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